やや長くなったが、「デザインと農業」という2つのテーマの組み合わせに興味があったので、それぞれのデザインの意味を解説してもらった。

 最後に、最近の江藤さんの活動について触れておこう。去年の12月から、江藤さんは自らつくった「お客様とつながるデザインハンドブック」という冊子を使い、デザインを手がけるようになった。

デザインの価値を伝えたい

 内容は、デザインの手引書というより、マーケティングの解説書だ。「創業時の目標」や「将来の目標」「お客様」「商品のイメージ」などを書き込み、「テーマカラー」や「文字の形」を選ぶ。「ライバルの動向」や「年間のPRスケジュール」を書き込む欄もある。こうした様々なテーマに向き合ってもらうことで、デザインを考える土台ができる。

 「デザインがよければ売れる時代ではない。マーケティングも入れ込んでデザインに落とし込まないと、お客さんに貢献できにくくなってます」

 この言葉には2つの思いがある。1つは、「デザインをつくって、お金をもらって、それでおしまいというのは好きじゃないんです」。デザインを通して、顧客の商品が売れる仕組みづくりに貢献したいという思いだ。江藤さんにとっては、それがデザインの意味なのだ。そのために、冊子で答えてもらった内容をもとに市場調査を手伝うこともある。

 もう1つは、デザインの価値を伝えることだ。「デザインって最終的には資産になる。資産をそんなに安っぽくつくっていいのって思うんです」。安易にデザインをつくれば、使い方もおのずと軽くなる。「そうではなく、ロゴを自分の分身と思ってほしいんです」。

 江藤さんが農家向けにデザインを始めた当初、デザイン料についての双方の考えにあまりにギャップがあることに悩まされた。企業なら、1つのデザインに100万円かけることもある。だが、農家のなかには、たった数万円の負担で尻込みする人もいる。

 だからこそ、デザインの価値を相手に伝えることが必要なのであり、そのためにも「売るための仕組みづくり」に積極的にコミットする必要がある。それが、いま江藤さんが挑戦している農家向けのデザイナーの仕事なのだ。

 社会に入ったばかりのころ、江藤さんは「5年間で4社」を転々とした。その延長では、自分の未来を切り開くことはできなかっただろう。だが、「一人旅が好き」という出発点から、農業の世界の扉をたたき、それをデザインで支えるという地点にたどりついた。「このハンドブックに答えてくれなければ、デザインする気になれません」。そういう確固とした地点だ。

 「あれよあれよという感じで、流れに逆らわず、求められるままに流されてきました。その結果、10年も続いていることを、自分でも驚いています。自分のやりたいことを、自分の裁量でやっているから、楽しいんです」

 フリーになってからも、膨大な事務作業にぼうぜんとして、「やめたい」と思ったこともあるという。だが、ここでそのことに深入りする必要はないだろう。以前ならひるんでしまったかもしれない数々のハードルを、江藤さんはすでに乗り越えているからだ。それを可能にしたのが、農業と地域の魅力であり、両者への江藤さんの思いだったという点を指摘して、今回の締めくくりとしたい。

新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売

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