「以前感じていたフラストレーションが、このロゴマークで解消されました。大量生産、大量消費で、自分のつくったものが瞬間的に捨てられていく。その回転に、面白みを感じることができなくなっていたんです。これなら、やっていけると思いました」

 こうして、江藤さんは本来、自分が一番好きなデザインと“もう一度出会った”。ただ、西村園のロゴマークを手がけたのは貴重な一歩ではあっても、デザインを生活の糧にする道が開けたわけではない。ここで、江藤さんはさらなる一歩を大胆に踏み出す。

地元のためにデザインする

 「農園や和菓子店などの商品を、私が勝手にデザインしてしまおう」

 相手から注文を受けていないのに、近くの農家の農産物や菓子店の商品などをデザインし、それを展示するイベントを開いたのだ。場所は地元のホームセンターの2階で、期間は2週間だ。

 もちろん、「勝手に」というのは当時の意気込みを語る際の表現で、農家や店主に了解をとり、イベントにも参加してもらった。トークショーを開き、江藤さんがインタビュアーになって農家のことを紹介し、集まった客と会場でプランターに種をまいたりした。

 「農家さんたちに『こういうことをやりたいので、1日でいいから来てください』と言ったら、参加してくれました。みんな私と同じように、もやもやしたものを抱えていたんだと思います」

 肝心なのは、たんにデザインをするのではなく、「営業」へと歩を進めた点にある。組織に属していない以上、だまって仕事を待っていても、だれも発注してくれない。だから、自分から打って出た。目的はデザイン料ではなく、「地元のためにデザインする姿」を示すことにあった。「後ろ盾が何もないので、できることは全部やろうと思いました」。

 これをきっかけに、参加した農家からロゴマークや名刺のデザインを正式に受注した。農協や瑞穂町役場からも声がかかるようになった。「背水の陣」の挑戦は、ひとまず成功したと言えるだろう。フリーのデザイナーとしてのキャリアがこうしてスタートした。

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