
コメの生産調整(減反)が廃止されたことを受け、主食のコメの大幅な増産にカジを切った農協がある。秋田ふるさと農業協同組合(横手市)だ。多くの産地が先行きを心配して様子見を決め込む中で、ふるさと農協は制度の見直しをきっかけに一気に「攻めの稲作」に転じた。
何もAI(人工知能)や特殊なセンサーを使って栽培効率を高めることだけが農業のイノベーションではない。産地が方針を変えることで、農家の経営環境が劇的に変わり、農業を覆う閉塞感を打破できることがある。今回取り上げるのは、農協が旗を振り、大胆な一歩を踏み出した例だ。
ふるさと農協の取り組みを紹介する前に、今年からコメ政策の何が変わったのかを説明しておきたい。減反廃止に関しては、「そもそも廃止していない」「むしろ減反強化だ」など様々な見方があるからだ。
農林水産省は都道府県に対し、主食米の生産上限を毎年指示することで、減反を実施してきた。指示を受けた都道府県は市町村ごとに上限を配分し、市町村は個々の農家に配分を落とし込む。これが減反制度の柱だ。この流れの起点となる国から都道府県への配分が今年からなくなった。
農水省は自治体が生産計画を作ることを認めているし、田んぼで主食のコメ以外を作ったときに出す転作補助金も引き続き出す。だから「減反は廃止されていない」と言いたくなるところだが、大きな違いがある。
農水省が減反廃止に際して掲げている方針は、「需要に応じた生産」だ。国全体として見れば、コメ消費は年々減っているので、国から都道府県への指示は減産が前提になっていた。ところが、その指示がなくなったことで、地域によっては増産することも可能になった。営業努力で売り先を確保できているのなら、増産もまた「需要に応じた生産」と言えるからだ。
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