「学びの場」という意味では、家族の交流にも注目すべきだ。会員の平均年齢は40歳代前半。だが、会員と一緒にその子どもや両親、子どもにとっては祖父母も農園に来る。もし、子どもが得意なスマホのゲームなら、祖父母の出る幕はない。だが畑では、鍬の使い方を一番知っているのは、祖父母。畑が、3世代の交流の場になるのだ。

 イタリアンレストランが借りた、ちょっと広めの一画も興味深かった。育てているのはトマトやハーブ、西洋ニンジンなど。「自分でつくった野菜を料理の食材にして、ほかのレストランと差別化するため?」という記者の問いにうなずきつつ、田村さんは答えた。「もっとべつの意味もあります」。

みんなで食べる充実感と、とれたての新鮮さと

 イタリアで修行したシェフがここで求めているのは、従業員教育だ。接客するスタッフが「今日のおすすめはニンジンです」と言うとき、ふつうはニンジンがどうやって育てられているのか知らない。だが、農園で自分で育てれば、顧客と話すときの説得力が違う。というわけで、あえてレストランのシフトを外し、スタッフを農園に送っている。

 この体験は、「料理の味」について再考するきっかけにもなるだろう。農園に来る会員の多くは、「野菜ってこんなに美味しいものだったんだ」と喜ぶ。実際、ここに限らず、体験農園で家族連れに話しを聞くと、ほぼ例外なく、野菜の味の良さを再発見したと答える。

 理由は2つある。1つは、家族でつくったものを家族みんなで食べる充実感。もう1つは、スーパーに代表される遠距離流通と違い、とれたてのものをすぐ食べる新鮮さだ。レストランのスタッフは仕入れの際、この2つを体感したうえで、プロのつくった食材を透徹した目で選び、調理する力が求められる。

 だから、ということで、田村さんは「収量を上げるテクニックよりも、菜園ライフをアドバイスすることをメーンにしている」という。もし、プロ農家に張り合いたいなら、ブロッコリーが満開の花になることは許されない。一方、この農園は栽培の基本的な原則は伝えるが、手取り足取り指導するようなまねはしない。