フリーになる前は日本農業新聞の記者でしたね。日本の農業の未来についてどう感じましたか。

窪田:高齢農家が大量にやめていくことはいいことだと思っています。いままでの日本の農家はほとんどが零細で兼業、つまり農業では食べていないわけです。印象的だったのは、米価が下がると、農協が引き連れて全国から農家が集まってくる。彼らが鉢巻きをして本気で叫んでいるかというと、そうじゃないんです。顔を見れば、わかります。

 米価が高くなることが、本当に彼らの生き死に関わっているかと言えば、そんなことはないんです。農業で食べていないからです。

 日本農業新聞に8年間勤めていてよくわかったのですが、そういう農家の方たちが辞めていくことで、農地を集約する素地ができる。そして、農家の数を地盤にしていた勢力があって、そこが力を失っていく。それはいいことです。

農協と農林族議員ですか。

窪田:ええ。これからも農業をやっていく経営者たちが嘆き、心配しているのは、労働力が足りないという実態です。これはいかんともしがたい。そこにテクノロジーがはまっていく。テクノロジーが下支えする力になってほしい。そういう期待を込めてこの本を書きました。

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矛盾に正面から向き合う

 エアコンのきいた部屋で、圃場を走る農業ロボットを操作する――。農業関係者のなかには、こんな農作業を絵空事と思う人がいるかもしれない。だが、窪田氏によると、技術的にはもう多くのことが可能になっているという。必要なのは、新しいテクノロジーを使いこなす経営と、イノベーションの実用化を阻む制度の壁を洗い出すことだろう。

 取材中、窪田氏がガラケーを取り出したとき、猛省した。ITのことを苦手に思って、農業で起きているイノベーションへの取材を怠ってはいなかったかと。この連載の今後の課題としたい。

 という自戒の思いを踏まえたうえで、伝えるべきエピソードがある。窪田氏がフリーになる前、日本農業新聞の記者時代に書いた記事のことだ。

 「価格カルテルの疑い 和歌山の梅干し加工業者」(2010年12月4日)。

 梅干しの加工会社でつくる2つの協同組合が、梅を生産している農家との取引価格で事前に「見通し価格」を決めていたことを告発した記事だ。カルテルの疑いがもたれるような価格操作のもとで、農産物が不当に安く買われていることへの窪田氏の憤りが記事には込められている。

 「がんばっている経営」や「先進的な技術」を紹介するのはもちろん大事だが、ものごとの矛盾に正面から向き合うのは記者本来の仕事だ。窪田氏の挑戦に敬意を表したい。

新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売