奨学生たちはこの会議のほかに、世界6大陸を回って先端技術を学び、グローバルな視野を育む研修プログラムに参加します。プログラムの期間は2年間です。各自がそれぞれの国の農業のリーダーになり、OB同士で世界的なネットワークを作る素晴らしい制度です。

プログラムへの参加を通じて国際的なネットワークができる(オランダで開かれたナフィールド奨学生会議)
プログラムへの参加を通じて国際的なネットワークができる(オランダで開かれたナフィールド奨学生会議)

会議でどんなことを感じましたか。

浅井:熱い議論を交わした10日間でした。テーマは多岐にわたります。例えば、我々人類が生きていくうえで農業は必要で重要なものですが、持続可能性はあるだろうかといったことを話し合いました。これまでは耕地面積の拡大やイノベーションでうまく増産してきましたが、これからも大きく増やせるのかどうか。

 各自のパーソナリティーも議題です。自分はどういう人間で、どういう生き方をしてきたのか。世界の農業や食料の問題を自国に置きかえるとどうなるのか。日本で農業のことを話すとき、たいていネガティブなことが話題になります。人口が減少し、農家も減り、耕作放棄地が増えていく。

 ところが、世界を見ると人口は増え続けていて、農家が果たすべき責任も大きくなっています。農業にとってビジネスチャンスという側面もあります。グローバリゼーションの中での農業のあり方が実にポジティブに話し合われました。日本と世界との違いを感じました。

 ホスト国のオランダは耕地が狭く、農業関連の規制も極めて厳しい国です。そういう国がなぜ次々にイノベーションを起こし、世界有数の農産物輸出国であり続けることができるのか。限られた資源、限られた条件のもとでどうベストを尽くすかが大切なんです。そういうものをベンチマークにして、自分の経営や自分の国の農業に活かせる部分は何かを考えました。

会議で感じた強い課題認識とパッション

 もう1つ感じたのは、今回参加したアジア人は僕1人ですが、ほかのメンバーたちにとってアジアと言えばもう中国なんです。マーケットとしてすごく意識している。農産物を輸出している国からの参加者が多いからだと思いますが、農業の世界では日本はあまり関心を持たれていません。中国に関する議論はたくさん出ました。少なくとも経済ベースで見れば、日本のマーケットは大きいはずなのに、自分たちが思っている以上に存在感が薄れている。その点が残念であり、危機感を持ちました。

 彼らは農業者として経験は積んでいますが、経営や学術的な面で圧倒的にすごいとは思いませんでした。恐れおののくような必要はありません。ただ、自分たちがこれからどんな農業をしていくべきかという課題認識、パッションがある。「世界はどう動いているのか」という国際感覚は日本の農家よりあります。

どんな農場を視察しましたか。

浅井:100人以上で自転車に乗り、グループ全体で2000ヘクタールのオーガニック農場を訪ねました。農薬や化学肥料を使わないオーガニックで2000ヘクタールは、僕らには想像しがたい規模です。農場の経営者もナフィールド奨学金制度を経験した先輩です。ものすごく考え方がしっかりしていて、「オーガニックで農業をやるのは自分たちのポリシーであり、オーガニックだから生産コストが高くて当然とは考えない」と話していました。

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