ベトナムを視察する田中氏(ラムドン省のダラット高原、写真は田中氏提供)

 「日本で雇用のミスマッチが起きている。海外でプロフェッショナルな産業人材を育てる場をつくりたいんです」

 これが、田中氏の言うベトナム進出の第1の狙いだ。田中氏は山梨県と兵庫県で運営しているトマトの大規模な栽培施設で、パートも含めると200人以上を雇用している。

 施設には最新鋭の設備を導入し、作業工程を緻密に組み立てているが、農業である以上、「どうしても肉体的にきつい仕事が残る」。そういう作業は「高齢者や女性ではやりにくい」。では、他産業から力仕事も管理もできる人材を引っ張ってこれるかというと、「まだまだ待遇の差があって、難しい」。

生産設計ができる現地人材を

 そこで、人材を内部育成する必要が出てくるわけだが、人手不足が産業界全体に広がるいまの日本の雇用情勢のなかで、国内だけで人材を確保するのは至難のわざだ。人材の確保と育成の場として、おのずと海外が浮上する。海外に農場をつくり、実際に農産物を販売しながら、人材を育てるという戦略だ。

 もちろん、ここで田中氏が言う「海外での人材の確保」は、国内外で悪名高い日本の技能実習制度の活用を狙ったものではない。イメージしているのは、技能実習生のような単純労働ではなく、現場では不可欠な体力を使う仕事もこなしつつ、現場の核となって働ける「プロフェッショナルな人材」だ。彼らが中心にいることで、地方で確保しやすい高齢者や女性も含めた作業体系を組み立てることが可能になる。

 2つ目の「日本の農業や食産業を世界にもっと知ってもらいたい」は、多くの説明は要らないだろう。前段で触れたように、田中氏の主張は、神戸牛などを除いて「輸出には社会的要請がない」。だから現地でつくる。それが広がれば、現地で育成し、日本の農場で働いた人材が故郷に戻って活躍する道も開ける。

 一連のインタビューのなかで、作物の味や細かい栽培方法が話題になることはほとんどなかった。例えば、栽培に関して言えば「マーケティングから始まり、最終的にどういうプロモーションをし、ブランディングするかにいたる。そのためにどんな品種が必要かを考え、それに見合った栽培方法を選び、それを実現するための設備の機能を決める。これが生産設計」といった具合だ。