つくる品目の数を増やしたのも、同じ狙いからだった。吉野家ファーム神奈川はタマネギやコメをつくってきたが、この2つはグループにとって戦略上、極めて重要な食材だ。いくら子会社でも、品質で妥協して仕入れるわけにはいかない。ようは、吉野家ファーム神奈川のつくる農産物の多くは、吉野家の求める水準には達していなかったのだ。

 選択肢は2つあった。腰を落ち着けて技術の向上を目指すか、ほかに売り先を見つけるか。吉野家ファーム神奈川が選んだのは後者だった。そのために、いろんなものをつくっては、スーパーなどに売り込んだ。量を確保するため、近隣の農家から集荷もした。最後はこのやり方を全面的に見直したわけだが、当時は早期に利益を出すことを考えたすえに選んだ作戦だった。

 先にふれたように、吉野家HDは神奈川県でこれ以上農地を増やし、黒字化を目指すことをすでにあきらめた。地主との契約などもあり、1ヘクタールが残っているが、同社の生産拠点に育てることが可能な規模ではない。巨大な外食チェーンにとって、たった1ヘクタールで細々とつくっても量的に意味をなさないからだ。

山梨県北杜市で「みつひかり」を

 ではこの1ヘクタールをどう活用するか。同社が模索しているのは、健康にいいとされる野菜の研究拠点にすることだ。昨年、機能性表示食品制度がスタートしたことで、野菜の効能に注目が集まっている。残った農地でそうした野菜を栽培し、食材としての可能性をさぐる。うまくいけば、産地に栽培を提案し、ほかの外食企業と差を出すための食材にできるかもしれない。

 一方で、吉野家ファーム神奈川という会社を存続させる背景には、べつの事情もある。同社は昨年から山梨県北杜市で5.3ヘクタールの水田を借り、稲作を始めているのだ。田畑の分散に悩まされた神奈川と違い、1カ所に田んぼがかたまっているのが北杜市の強みだ。採算に乗せるのが難しい神奈川以外で利益を確保するのが狙いだった。

広い水田で生産の安定を目指す(山梨県北杜市、写真は吉野家HD提供)