
吉野家ホールディングスは神奈川県で運営していた農場を大幅に縮小した。これ以上生産を続けても利益を出すのは難しいと判断したためだ。立ち上げから7年。大手外食チェーンが手がける農業という性質上、本来、つくったコメや野菜の売り先には困らないという強みがある。にもかかわらず、なぜ事業を軌道に乗せることができなかったのだろうか。
3.6ヘクタール、30種、対応できず
事業を縮小するのは、吉野家HDの子会社の吉野家ファーム神奈川(横浜市)だ。昨年は神奈川で水田と畑をそれぞれ1.8ヘクタールずつ借りていたが、今年は水田はすべて地主に返し、畑も1ヘクタールに減らした。2009年の設立から足元まで、7期の決算をへて一度も黒字になったことはなかった。
利益が出なかったわけは大きく分けて2つある。まず、田畑を合わせて面積が3.6ヘクタールまで拡大していたとはいえ、圃場が分散しているため、効率が悪かった。具体的には、水田は2つの地域、畑は4つの地域に分かれており、規模拡大のメリットをほとんど享受できていなかったのだ。移動の便を考えれば、むしろ拡大が経営の足を引っ張ったと言えるかもしれない。
2つ目の理由がもっと肝心なのだが、品質も収量も安定していなかった。スタッフに技術が十分身についていないにもかかわらず、一時は30種類もの野菜に手を出した。それを反省し、直近では品種を白菜、タマネギ、青ネギ、リーフレタスの4種類に絞ったが、例えば、タマネギは甘い大玉をつくることができず、スーパー向けに販売した。
青ネギは埼玉県の自社の加工センターを通して「吉野家」や「はなまる」に出していたが、去年は雑草の処理が追いつかず、作業が後手に回って病気への対処が遅れ、計画通りの収量をあげることができなかった。白菜、タマネギ、青ネギはすでに生産を停止した。残るリーフレタスは、卸会社を通してグループ外に出荷している。
こう書いてくると、打つ手がすべて間違っていたようにみえるかもしれないが、一つ一つの手にはそのときどきの狙いがあった。田畑が分散しているのはもちろん非効率だが、人件費などの固定費を計上したうえで、利益を出すには、まず規模を大きくしなければならないとの思いがあった。もし、規模拡大に伴い、徐々に同じ地域に圃場が集中していけば、利益を出す道筋もみえたかもしれない。
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