環境を制御した施設で、職員の待遇の改善を目指す(山梨県北杜市)

 「篤農家は草が生えてくる前に、草を生えさせないような仕事の体制をつくる。一番もうかる畑はまるで難しそうに見えず、『だれがやってもこんな仕事簡単じゃん』っていう状態を保っているんです」。さまざまなトラブルを兆候の段階で未然に防ぐ。それこそが農業が追求すべきノウハウなのだ。「問題が発生してから、スーパースターのように『解決したぜ』って言うことがない現場にすることが大切なんです」。

リーダーが口出ししなくても

 話題は農業からそれるが、「上農は…」の格言について考えていたとき、中国の古典『老子』のなかにある有名な一節を思い出した。

 「最高の支配者は、人民はその存在を知っているだけである。その次の支配者は、人民は親しんで誉めたたえる。その次の支配者は、人民は畏れる。その次の支配者は、人民は馬鹿にする」(蜂屋邦夫訳、岩波文庫)

 リーダーが部下と慣れ親しんだり、逆に大声でしかりつけたりしてようやく回っているような組織が、優れた組織ではない。本当にうまくいっている組織は、リーダーが一々口出ししなくても、うまく回る体制になっている組織を指すのだろう。先の格言が「草を見て草を取る」のを「中農」に位置づけているのと共通したところがあるように思う。

 ところで、本当は今回はベトナム進出の話や、トマトの栽培についての田中氏の考え方までお伝えする予定だった。だが、創業期の苦悩や、5S活動に込めた意味などを考えていると、中身をはしょって話を先へ進めることができなかった。田中氏が気づいた数々の問題は、必ずしも農業界だけに当てはまることだとは思えなくなってきたからだ。

 本稿で「農業界の古い発想」といった表現を何回か使った。それを突破しようとする田中氏の話を聞いていたとき、最初のうちは「ベンチャーだからこそ、企業文化を創りあげる苦労があるのだろう」と思っていた。だが、インタビューを終えるころには「そもそも、自分はそんなに先を見通しながら、メリハリの効いた仕事をしているだろうか」と感じていた。戒めなければならないのは自分も同じだと思いつつ、次回へと話を進めたい。

新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売