トマトの栽培施設の機器。配置の仕方などに工夫が凝らされている(山梨県北杜市)

 ここで、田中氏は現場の仕事を改善した一例を説明してくれた。畑で畝を立てたり、溝を掘ったりするために使う管理機という機械がある。以前は、軽トラに載せて畑に向かう際、急勾配の細い足場を立て、管理機のエンジンをかけて載せていた。難しくて危険な作業だ。「意味のない単価の安い仕事を、ベテランの単価の高い社員がやっていた」。

農業が目指すべき究極の姿

 解決方法はごくシンプル。軽トラの荷台と同じ高さの台をつくり、管理機をそこに収納するようにしたのだ。そうすることでエンジンをかけず、横付けにした軽トラに手押しで載せることができるようになった。だれでも安全に簡単にできて、事故が起きにくい。だから、修理費も発生しにくい。

 農業の現場では、往々にして逆のことが起きている。「やっぱりおれがやらないとダメか」。年配の社員がうれしそうに言いながら、自分に仕事を集中させる。手持ち無沙汰のほかのスタッフは本来やらなくてもいい仕事をつくり出す。田中氏は「コストでしかない。『農業は忙しくて、大変だ』って言うが、あたかも勤勉に働いているように見えてるだけではないか」と指摘する。

 管理機の例は単純すぎるようにみえるかもしれない。だが、大型の栽培施設の兵庫ネクストファームとアグリビジョンには、合計で200人を超すパートが働いている。仕事の仕組みをひとつひとつ緻密に組み立てなければ、小さな無駄が積み重なって、膨大なコストアップになる。それをルーズにやれば、既存の農業の限界を突破できない。

 ここまでみてくると、田中氏がたどりついた農業界の古い格言の意味が鮮明に浮かびあがる。

 「上農は草を見ずして草を取り、中農は草を見て草を取り、下農は草を見ても草を取らず」

 中国の明代の農業書に端を発するこの格言には、日本でも中国でもさまざまな解釈がある。田中氏は「これって農業が目指すべき究極の姿だと思う」と話すが、いうまでもなく「雑草の繁茂を防ぐためのコツ」だけをこの格言から学び取ったわけではない。