ここで、経営の模索が始まった。毎日、午後1時半から30分間、「5S活動」に取り組むことにしたのだ。日本の製造業の現場でよくある「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5つの活動だ。「よくある」と書いたが、効果が出るかどうかは、なぜ5S活動が必要なのかをスタッフが理解しているかどうかにかかっている。だから、田中氏は「一番大事なのはしつけ」と話す。

勘と経験に頼る農業から抜け出す

 そもそも作業が追いついていないのに、5Sのために時間をさくのは簡単ではなかった。だが、「このままじゃだめだ。優先順位を変え、時間をつくり出すしかない」と思った田中氏は「一等地の時間を使う」と決め、収穫や出荷などの作業より優先させた。次の言葉が当時の気づきを示しているだろう。

 「マニュアルで農業なんかできるわけねーじゃねえかって思ってました。でも、違うということがわかったんです。マニュアルはすべての人の最低レベルをある一定に保ち、よりよいやり方を見つけ出すためのツールなんです」

 これは農業界にいまも残る鋭い対立点だろう。自分の作物にこだわりのある農家ほど「勘と経験が大切だ」と強調する。先進農家といわれる人の多くは「勘と経験に頼る農業からの脱皮が大切」と語る。だが後者でさえ、その方法を確立できた人はそう多くはない。

 では、田中氏はどこまで作業の標準化を実現し、創業の混乱期に課題となった人材育成に道筋をつけたのか。「まだできていませんと言うしかありません」と話しつつ、克服に向けて努力してきた課題について語ってくれた。

 「現場でペンチを使おうとして、『ない』ってことがよくある。本部のAに電話して『ペンチないけど、使ってる?』。電話を受けたAは『面倒くさい』と思いつつ、『使ってません』と言って電話を切る。そう言われた現場は『面倒くさい』と思いながら、もう一度べつの社員に電話して『ペンチ知らない?』。返事は『使ってません。Aさんに聞いてください』。こうして振り出しに戻る」

 「みんな一生懸命仕事をしてるふりをしながら、お互いに邪魔をして、迷惑をかけてる。それで夕方になったら、『何で今日の予定が終わってないんだ』って話になる。みんな心のなかで、『無駄な電話があんなにかかってきたら、仕事にならないよ』って思ってる」