以上が都市農業に対する小野さんの考え方だが、本を執筆するための取材を通し、新たな気づきもあったという。一言でいえば、都市で農業をやってきた人たちの努力の再評価だ。

小野さんたちが執筆した新刊『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4540151738/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4540151738&linkCode=as2&tag=n094f-22">都市農業必携ガイド</a>』
小野さんたちが執筆した新刊『都市農業必携ガイド

 例えば、小野さんのイベント農場だけでなく、最近の市民農園のなかには、企業的な発想で快適な空間をつくり、事業が急拡大している例がある。だが、はなやかで注目を集めやすい新規参入組が登場する前に、既存の農家が開いた体験農園があった。それは、農地が狭い都市でいかに農地の収益性を高め、維持するかを考えたすえのアイデアだった。「ぼくらが突如始めたのではなく、地道な努力できずいた礎があって、ここにつながったんです」。

 だから、新規参入組が急拡大していることへの既存の農家の複雑な気持ちにも理解を示す。彼らの多くは、農業で利益を出すことをあきらめ、ただ「家業を守る」という思いだけで農業を続けてきた。「新規参入組への反発は時代遅れで、彼らは努力が足りないのかもしれません。でも、合理的なことだけをやるという方法をくり返すと、地域がまわらなくなってしまうんです」。

 そのことは、イベント農園の運営をしていても感じるという。「まわりの農地があってこそ、ここが成り立っているんです」。もし、住宅地のなかにぽつんとイベント農場があるだけだったら、「集客力」を得ることはできただろうか。そのことを自覚しているから、「農業をやりにくい都市で農業をやってきた人たちの努力こそ報われるべきです」と考える。

都市の農地を「再評価」する

 食料基地とは言いがたい都市の農地の税負担を減免し、社会が支えることの正当性を裏付けることがこうして可能になる。これは「なぜ自分は都市で農業を続けているのか」という、既存の農家の自問への答えにもつながるだろう。もちろん、都市部で横行してきた違法な転用や転売を厳に戒めることは当然だ。

 中国をはじめとする新興国が台頭し、日本は経済面ではかつてのような存在感を失いつつある。だが同時に、アスファルトやコンクリートで田畑を埋め、宅地や商業地にする需要が減ったいま、日本は農地に新たな価値を与えるチャンスを手にしようとしている。

 高度成長が農業から工業、サービス業へと産業構造が移り変わる時代だったとすれば、日本がこれから迎えるべきなのは、田畑の持つ多様な価値を再発見する時代なのではないだろうか。都市に農地が残っていることじたいに意義がある。それは、経済で追い上げる新興国に、日本が示す新たな社会の姿でもある。

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