
では市民はなぜ農地や農業にかかわろうとするのか。小野さんは2つのパターンに分けて考える。まず、「環境問題が大好きで、自然志向の人はどこにでもいます」。関心のポイントが「食の安全と安心」にある層で、次世代のために「近くに農地があってほしい」と考える。地産地消を応援するような人たちだ。
もう1つは、コミュニティに関心があり、よりよい町にしようと考える層だ。小野さんによると「ぼくらの世代に多い」ということで、本のなかでもみずからの農場を「コミュニティ農園」に分類している。1つの町のなかにいろんな職業の人がいて、お互いにネットワークでつながるような町づくりを考える。当然、そこには農業もふくまれる。
行政は、農地の維持管理に関心がある農家と、農地でいろんなことをしたい市民とのあいだで板ばさみになる。小野さんが協議会に参加したときは、担当者が「町づくりの一環としての農業」という小野さんたちの考え方に共鳴し、田んぼを使ったどろんこイベントなどを発案してくれた。だが、それはむしろ例外で、農家と市民の要求に「そうですね」とうなずくだけで、なにも手を打てないことも多いという。
環境教育と福祉、そして食料問題への貢献
では行政への参加や農園の運営を通し、小野さんは都市農業をどう位置づけるようになったのか。「周辺の市民や行政が関与しようとすると、都市農業っぽくなります」。両者とも、農地に食料生産以外の価値を見いだすようになったのだ。小野さんはそれを「環境、教育、福祉」と考える。
まず、子どもたちが田植えや稲刈りなどに参加すれば、それだけで十分に教育的な意味をもつ。都市部で急激に増えている市民農園には、高齢者福祉という側面もある。環境保全はすなわち地域の緑や動植物を守ることであり、農薬まみれでなければ農業はその主役だ。これは収量と効率を優先する「第1次産業」の発想とは一線を画す考え方だろう。
だが小野さんはさらに一歩進め、都市農業の発展が食料問題にも貢献すると考える。「社会が食への基礎知識や経験を失ってくと、食料政策のかじ取りを間違えると思うんです」。自分や家族が食べているものが、どこでだれがつくったのかまったく知らない社会には、正しい食料政策は生まれてこないという発想だ。そんな社会を改め、市民が農業を身近なものに引き寄せようとするのは、健全な動きと言えるだろう。
Powered by リゾーム?