「日本の農業者は世界を知ったほうがいい」と話す前田茂雄さん(北海道本別町、前田氏提供)

 交流は、前田さんにとって貴重な「気づき」の場にもなった。まず参加したメンバーのほとんどが、農産物輸出国の農業者だった。前田さんによると、「彼らは輸出をしないと農業は成り立たないと思っている。だから、日本のこともマーケットとして意識している」。前田さんと接するときも、彼らの関心は、どうすれば日本に輸出できるかにあった。

 これは重要なポイントだ。ナフィールドは60年の歴史があり、各国の有名な大企業がスポンサーになっているにもかかわらず、日本でその存在が知られていないわけがこれで分かる。世界に日本の農産物を売り込むことを本気で考えてこなかったからだ。これに対し、「ナフィールドに来たメンバーは、人との関係を構築することがビジネスになると考えている」。くり返しになるが、視野に入れているのは海外市場だ。

自分がやってきたことは、間違っていない

 一方で前田さんはこうも考えた。「彼らは日本に売ろうとし、自分は本州に売ろうとしている。これは共通。でも、自分は日本にいて、日本の消費者のことを知ることができる」。当たり前のことと思うかもしれないが、これは農業経営では大きな意味を持つ。

 じつはナフィールドの会合に行くまで、前田さんにはある迷いがあった。「農協に出荷しておしまい」ということが多い小麦の生産者としては珍しく、前田さんはベーカリーや消費者に小麦を直接売る努力をしてきた。だがこのやり方は、マーケティングの難しさだけでなく、みずから在庫を持たなければならないというリスクもある。「一農家でやっても大きな流れにはならないのではないか」。それが最近の悩みだった。

 ところが、ナフィールドに行って気がついた。「海外の生産者も自分で値決めし、消費者に売ろうと努力しているが、ほとんどできていない」。自分はそれをやっている。しかも、農場の規模に左右される生産性で彼らに勝つことは難しい。そこで改めて確信した。「クオリティーの違うものをつくらないといけない」。自分がこれまでやってきたことは、間違っていないと感じたのだ。

農場と消費者の距離を近づけるため、畑にミステリーサークルをつくった(北海道本別町、前田氏提供)