環太平洋経済連携協定(TPP)に日本が参加するとき、農林族や農協は「農業が壊滅する」と猛反発した。もし本当に関税がなくなれば、経営環境は間違いなく悪化するから、反対すること自体は仕方がないとも言える。だが、政治や団体の役割はそれだけではないはずだ。日本がこれから向き合う「世界の農業」の実情を知り、生産者に伝えることも大切な仕事ではないだろうか。

 今回紹介するのは、農業者として単身、世界への窓を開こうと挑戦している前田茂雄さんだ。北海道・十勝の東部地域で、父親の芳雄さんとともに約110ヘクタールの農場を経営している。おもな作物は小麦やトウモロコシだ。

日本人が交流会に出席するのは初めて

 「ナフィールドに行ってこようと思っている」。筆者が前田さんからそんな連絡を受けたのが、今年1月はじめ。ナフィールドは農業者や漁業者を対象にした国際的な奨学金制度で、米国の大手農業機械メーカーや外食企業、欧州の農業関連の金融機関などがスポンサーになり、世界各国の農場を6週間の日程で視察する。

 もともと英国の自動車メーカーの経営者が資金を出し、世界の農業者の交流の場として約60年前に誕生した。その後、グローバル企業がスポンサーとして参加することで内容が充実していった。視察対象は各国の農場だけでなく、食品流通や加工の現場にもおよぶ。食文化や消費動向について学ぶ機会も設けられているという。

 奨学金の目的は、各国の未来の農業界のリーダーを育成することにある。例えば、ナフィールドの運営メンバーの一人は、オーストラリアのトマト生産でおよそ8割のシェアをにぎる大規模経営の生産者だ。彼もかつてナフィールドの「旅」に参加した経歴を持つ。

 今年の奨学生はブラジル、アフリカ、インド、中国、日本をおもな視察先とする5チームに分かれ、合計で約80人がすでに出発している。メーンの視察国に加え、それぞれ7カ国以上を回り、見聞を広める予定になっている。

 前田さんが参加したのは、各チームの出発に先立ち、奨学生が1カ所に集まり、どんなメンバーが旅に出るのかを確かめ合うための交流会だ。今年はアイルランドの北東部にあるキャバンで3月上旬に開かれた。前田さんは奨学生ではないので、参加資格は「ゲスト」。日本人が出席するのは初めてという。

ナフィールドの会合で各国の農業関係者と談笑する前田茂雄さん(アイルランドのキャバン、Nuffield csc提供)