植物工場の可能性を示す例として、メディアで大きく取り上げられてきた野菜の1つに「低カリウムレタス」がある。腎臓病患者でも安心して食べることができるレタスの登場は、栽培環境を高度にコントロールする植物工場の強みの象徴と映った。その代表的な会社であるドクターベジタブルジャパン(東京都千代田区)を、親会社のエージーピーが2月に清算した。

 低カリウムレタスの栽培技術はもともと、福島県にある電子部品メーカーが事業の多角化の一環として、大学の協力を得て確立した。カリウムは窒素、リン酸と並んで植物の3大栄養素の1つ。そのカリウムを肥料として投入する量を抑えながら、レタスを安定して育てるのに成功したことは、植物工場の技術のブレークスルーとして画期的なことだった。

低カリウムレタス「ドクターベジタブル」のパッケージ(写真提供:エージーピー)
低カリウムレタス「ドクターベジタブル」のパッケージ(写真提供:エージーピー)

 マーケットの存在もはっきりしていた。生野菜に多く含まれるカリウムを十分に体内から排出することができないため、野菜を食べることを制限する必要がある透析患者だ。患者にとって、低カリウムレタスの登場は、食生活を豊かにすることができる希望の技術であったことは間違いない。

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