水門とコードでつないだセンサーを田んぼに刺すことは先に触れた。農家は田んぼの水位の上限と下限を決め、それに合わせて水門の円柱が自動制御で上下する。上下限を農家が個々に決めるのは、気候条件や田んぼの状況によって水の管理は千差万別だからだ。「経験と勘」に頼っているとの見方も出そうだが、植物工場と違い、田んぼという開放型の農場で水管理を普遍化するシステムの開発は困難を極め、仮に実現してもおそらく高価になる。

 上下限の決め方は、農家の腕の見せ所。そこで肝心なのは、決めたあとに水管理を自動化することによる効率の向上だ。横田氏は「多くの農家は収益を改善するため、肥料や農薬、機械の投入を抑え、コストを削減してきた。これからは効率を上げなければならない。ポイントは水の管理にある」と話す。南石教授によると、「我々のプロジェクトでは収量が5%増えるという結果が出ている」という。それをこの1年で実証する。管理を自動化するので、作業が後手に回り、稲の生育に悪影響が出るのを防ぐことができるのだ。

価格設定目標は5万円以下に

 経営改善効果と同様に大切なのが値段。1年間の現地実証を経て、2019年4月に売り出す際には、5万円以下に抑えることを目標にしている。資料には「稲作農家が導入可能な目標販売価格」とあるが、ようは農匠ナビに参加している農家にとっても「値ごろ感」があることが前提になっている。ぶった農産の仏田利弘氏は「自分たちも使う立場なので、使いたいものを作った」と説明する。その中には、当然、値段も含まれる。

「自分たちで使いたいものを作った」と話す仏田利弘氏(都内で開かれた説明会)

 以上が、農匠ナビが開発した自動給水機の概要。開発を貫いているのは徹底した現場重視の姿勢だ。南石教授はそのことを次のように表現する。
 「我々は稲作経営者の経営改善にどう役立つかという観点に特化している。なんだかすごい、というような技術が現場で普及するわけではない」

九州大学の南石晃明教授は現場目線の研究を続けている(都内で開かれた説明会)

 だから、メーカーが造る農機にときにあるような、過度な使いやすさや過剰な機能は慎重に排除されている。コメ農家はいくら自動制御の機械ができても、田んぼから完全に足が遠のくことはない。どこかのタイミングで自分の目で田んぼを見ようとする。それは必ずしも、非合理的と否定すべきことではない。この微妙な線引きの上に、今回の自動給水機がある。

 そこで、次のテーマが5月から新たに実証実験を始める「遠隔監視機能と遠隔制御機能」。これも「農家の目線」ならではの特徴があるのだが、横田農場で実際に試験が始まってから改めてリポートしたい。