こういう発想で従業員を管理すれば、既存の農家からすれば「サラリーマン的」と感じるのかもしれない。だがげんに、イオン農場の社員はサラリーマンであって事業主ではない。ましてや時給で働くパートに、もうかった分だけ自分の稼ぎになる農家のような働き方を求めるのは無理な話だろう。

 ちなみに、企業の農業参入のなかには、じつは参入と言うべきかどうか判断に迷うものが少なくない。例えば、既存の農場と栽培契約を結び、企業名を記した看板を立てたり、栽培方法を指示して系列農場にしたり。そういう「企業参入」は栽培がどうなろうと、企業の評判にはあまり影響しない。これに対し、イオンは自社の従業員が現場で栽培に挑戦している点で似て非なるものだ。

従業員のキャリア形成も含めたチャレンジ

 というわけで、地元の農家が批判した2点はいずれも悩ましい問題だ。雑草が茂った田畑はまじめに農業に向き合っていないようにみえるが、ではどこまでが本当に作物の生育に影響する問題で、どこまでが「見た目」にすぎない問題なのか。今回のケースでそれを判定することはできないが、合理性をどこで線引きするのかは慎重に考えるべきテーマだろう。

 「働き方」もこれと関係する。細心の注意で植物と向き合うべきなのは当然だが、その結果、得られる成果と労働の負担とはどういう手法でバランスをとるべきなのか。くり返しになるが、これは事業主と従業員とで利害は必ずしも一致しない。そして、躍進する農家はいまや農業法人になり、スタッフを雇用する立場になっている。農業法人の経営者は従業員を雇う際、そのキャリアプランをどこまで考えているだろうか。

 イオンはたんに作物の栽培にチャレンジしているのではない。従業員のキャリア形成も含め、企業的でかつ持続可能な経営に成功するかどうかが試されているのだ。そしてもしそれが、既存の農家の多くが「どうせもうからない」と嘆く稲作でうまくいくのなら、企業の農業参入をもっと評価できるようになる。

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