日本はいま超高齢化社会に突入しようとしている。会社を辞めたあともなお長く続くセカンドライフを、サラリーマンたちはどう設計するのか。続橋さんたちが目指したのは、ずっと元気に働くアクティブシニアだ。そのお手本は、目の前にいる。3人が「お師匠さん」と呼ぶベテラン農家の中西さんだ。すでに70代後半だが、「おやじさん、元気元気」。会社の先輩のなかには、「定年後、枯れちゃった感じ」の人もいるのに、中西さんの姿はまったく違う。

 「あんなに若いときに入社して、ずいぶん会社にいたと思ったけど30年。農業は、これから20年続けたい」

頭と体を使い続ける「農業の価値」

 日本の農家の高齢化が進み、大量のリタイアが迫っていることを、「農業危機」という言葉で表現してきた。田畑を引きつぐ若い就農者が足りないという意味で、危機は現実のものだが、「20年続けたい」と思うミドルの存在を考えれば、状況はまた違ってみえる。

 日本は海外から大量に農産物が輸入され、膨大な食料がまだ食べられるのに捨てられる飽食の国だ。農業の収益性はどうしても低くなる。教育費などがかさむ20~40代と違い、生活費の負担が比較的軽い50代後半以降が農業に挑戦する意義はそこにもある。しかも、「ぼくらは元気。医療費もあまりかからない」。これは、年をとっても頭と体を使い続ける農業の価値でもある。

 「都会で働いてきたぼくらの世代の人たちこそ、農業を経験してほしい。そのロールモデルをつくりたい。ぼくらのように楽しい人生を送ってみませんか」

 3人の挑戦は始まったばかりで、栽培と収益の両面でまだ安定していない。だが、その成否をはかるものさしは、この連載でこれまで紹介してきた「躍進する農業法人」とはまた違ったものになるだろう。今回の取材で痛感したのは、農業の価値はじつに多様なものだという点だ。農業を成長産業にするという目標は大事だが、田畑を次代につなぎ、豊かな社会をつくる方法は、もっと多様なものだと気づかされる取材だった。

まだ新規就農。20年現役でいたい。(写真提供:アーバンファーム八王子)
まだ新規就農。20年現役でいたい。(写真提供:アーバンファーム八王子)
新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売

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