何か明るい体験はないのだろうか。「ぼくらは作業が遅いんで、ほかの農家がナスがなくなったとき、ぼくらにはある」「独壇場。結果論ですが、中西さんはネギは年内で終わりましたが、ぼくらにはある」。これは単純に喜んでいい話なんだろうか。「効率は悪い。旬だと全部出荷できたかもしれなかったのに、7~8割にとどまったり」。
初出荷の喜びはどうだろう。
「一番最初は6月のジャガイモです。収穫したらすぐ出せばいいのかと思っていたら、表面の土を軍手でふき取る必要がありました。この磨く作業が朝から晩まで。正直しんどかった。売り上げは10万~15万円くらいでした」
それでも、最初の収穫で売り上げが立ったことじたいはうれしかったのではないだろうか。
「こんなにお金にならないのか」
「一般的な価格で計画をつくり、東京都農業会議に出したら、『そんなに収入にならないよ』って言われました。『そんなことねーよ』って思いましたが、実際はそれ以下でした。『こんなにお金にならないのか』って思いました」
収穫を始めたときは、3人の表情は明るかった。イモを掘ると、1株に10個くらいついていた。「これスーパーに行ったら200~300円になるよな」「何百株もある。30万円くらいにはなるんじゃないか」。ところが、小さかったり、傷んでいたりして、全量をそのまま出荷できるわけではなかったのだ。「思惑通りには数字にならないなあ」。率直な感想だろう。
こんなやりとりを続けていたら、水野さんがふと気づいたように、一通の手紙を持ってきた。3人のつくった野菜を食べた顧客からのものだった。
「三勇士さま。先日直売所で葉が厚く、ひときわ緑が濃く、目立っていたホウレンソウを買わせていただきました。根もとの汚れがないので、調理の手間がなく、全体にとても甘く、根まで楽しませていただきました。とてもおいしかったです。疲れが吹き飛ぶくらい、食べた瞬間から元気にさせてくれました。心より感謝申し上げます。どうしてもこのことを伝えたく。応援しています」
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