畑と売り先を確保できたのは、会社を立ち上げる前に研修した八王子のベテラン農家、中西忠一さんの協力が大きい。篤農家として有名な中西さんの紹介がなければ、農業で実績ゼロの3人が畑をみつけるのは困難を極めただろう。3人が「この出会いが素晴らしかった」と感謝するゆえんだ。

「食べ切れませんよ」「きつかったねえ」

 準備は整った。そこで、「後手後手農業」に話を進めよう。メンバーは1年目の成果をどうみているのか。「中西さんが種をまいているのを見て、『種まこうよ』って動き出す」「人より遅くものができて、さばくのも遅いから、作業を引っ張ってしまう」「収穫の手際が悪いから、1日の出荷量がほかの農家より少ない」。反省の弁ばかりだ。

 小松菜を大量に捨てたこともあった。主力の小松菜は売り先に毎週出荷する約束になっていた。まず、どういう頻度で種をまいたらいいのかがわからない。欠品を心配し、頻度を高めたら、夏場に一気に成長速度が高まった。問題が起きたのはこのときだ。

 いつものように収穫していると、次の畝の小松菜がずいぶん大きくなっていることに気づいた。「やべー、向こうでかいぞ」。その次の畝もどんどん育っていた。やむなく、40~50センチまで育ってしまった小松菜を畝一本分捨てた。種をまき過ぎたのだ。

主力の小松菜。「つくり過ぎ」で農業の難しさを知った。(写真提供:アーバンファーム八王子)
主力の小松菜。「つくり過ぎ」で農業の難しさを知った。(写真提供:アーバンファーム八王子)

 ここで質問してみた。「みんなで食べるって手はなかったんですか」。愚問だった。「いや、食べきれませんよ」。家庭菜園ではないのだ。畝の長さは一本30メートル。軽トラに積み、捨てに行ったという。売り先への約束を破らなかったのは、不幸中の幸いだった。

 「作業が遅くて、畑のなかで野菜がどんどん傷んでいくんです」。ショウガは本来黄色いはずの表皮が、茶色がかってしまった。食べるのに問題はないし、噴霧器を使えば、色を落とすことはできる。ただし、収穫は簡単に終わるのに、洗う作業は4~5時間。「きつかったねえ」。

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