荒幡教授は農水省のOB。減反制度の変遷と、減反を実施する現場の作業を熟知しており、「減反廃止で米価は暴落する」「減反をやめれば稲作は国際競争力を持てる」などの極論にはくみしない。自治体や農家へのヒアリングをもとに分析し、米価を上げながら減反を廃止することの危険性を警告する。
「建前」を国民に示せ
現場の調査が徹底しているから、その指摘は説得力を持つ。例えば、「自治体の帳簿に調整水田や保全管理という言葉があるのを去年も見た」と話す。どちらも、農水省が建前上は否定している休耕田だ。それが分かったうえで、荒幡氏は建前も大切だと強調する。農政がどういう方向を目指しているかを伝えるメッセージになるからだ。
既存の稲作構造の温存を認めるかのような農政が正しいなら、日本のコメ農家はこんなに高齢化し、耕作放棄が深刻になり、跡継ぎ不足に悩まされたりはしなかった。2年後に迫った減反廃止という節目に合わせ、農政はしっかりとしたビジョンを国民に示してほしい。それが当面は建前にすぎないのだとしても。

『コメをやめる勇気』

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。
日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売
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