「利便性と当然、綱引きになります」

商品の魅力が低下したわけではないですね。

久松:うちの野菜をとってくれているお客さんはみんな、「すごくおいしい。楽しんでます」と言ってくれます。でも、加えて「うちはすごく特殊な家庭だから」と。お母さんがすごく頑張って料理している家庭とか、お父さんが毎日家で食事する家庭とかです。

 これだけオーガニック系のものを買う手段が増えてきて、農家から直接買うことに喜びを感じている家庭がどれだけあるのかということです。昔から「そりゃそうでしょ」って思ってましたが、最近はそういう人たちがすごく貴重だと感じています。

ライバルということで言えば、前回、イトーヨーカ堂の「顔の見える野菜」に触れました。

久松:代替手段が増えているのは間違いない。うちから買うか、スーパーで買うかしかなかった時代と違い、オイシックスのような専門の業者が現れ、ネットスーパーも登場した。「おいしい野菜を食べるため、久松農園で買って、がんばって料理しよう」って身構えなくても、買う手段はたくさんある。利便性と当然、綱引きになります。

 おまかせ宅配セットは天候によって何がとれるかわからないし、僕らの腕にかかっている部分もある。選択肢をこっちに与えてくれないと成り立たない仕組みで、1カ所の農園で作ることで「絶対ウソをつかない形でやります」ということをお客さんに担保しています。ライフスタイルの変化がいよいよそれを許容しなくなっているんです。利便性を満たす競合サービスが増えたことで、おまかせセットは以前と比べて選ばれにくくなってます。

なぜ利便性が優位になってきたのでしょう。

久松:やっぱりみんな忙しいんです。自分の友人たちを見ても、料理をするのが好きで、食べるのが好きな層でも、とてもじゃないけど毎日うちで料理することなんてできなくなっている。魚を料理することもできない。望んでいるかどうかは別にして、平日は外食です。

 この間、象徴的なニュースを見ました。2017年にレトルトカレーの販売額がカレーのルーを超えたんです。僕の場合は野菜もあるし、時間があればカレーをルーで作るけど、やっぱり手間がかかる。とくに子どもがいなかったり、60代の夫婦で1人がカレーを嫌いだったりしたら、作らないでしょ。

 たしかにレトルトカレーはおいしくなってます。でも、自分の中のレトルトカレーの位置づけからすると、こんな日が来るとは夢にも思いませんでした。ショックだし、それじゃあコメも食べなくなるなって思います。

20年間同じ価値を追求してきた(写真提供:久松農園)
20年間同じ価値を追求してきた(写真提供:久松農園)

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