価値は、宅配だけでじゃない

経営環境はどう変化したのですか。

久松:僕と農園のスタッフがやりたいことは何も変わっていません。自分たちの作りやすい野菜を露地で作る。農薬を使う防除はやりたくない。いろんな種類のものを作る。直接お客さんとつながっていたい。

 畑で作る喜びと楽しさを話しながら、畑でみんなで食べるのが一番おいしい。その喜びは確実に分かち合うことができる。価値は、宅配をやっているということだけじゃないんです。うちでイベントをやるたびに、その価値は揺るぎないものであるという自信を深めています。

 ただ、ビジネスとして成立する条件は、それとは完全に切り離されていて、時代状況によって変わります。原発事故で売り上げが減ったときと比べて、今の変化のほうがよっぽど大きい。構造的な問題です。

原発事故のとき以上というのは深刻ですね。

久松:状況の大きな変化として、マーケットの縮小という問題がある。消費者のライフスタイルの変化です。野菜をたくさん食べるのって、お金と時間に余裕のあるシニア世代か、子育て世代が中心。ターゲットにしていたわけではありませんが、結果的にそういう人たちが買ってくれてます。

 自分たちがやっている宅配のパッケージは、ある程度客単価がないと成り立たない。手間のかかるやり方なんです。セットで2500円が標準で、送料を乗せて3000円前後。2週間に1回とっている人が多い。

 マクロの状況がどうなろうと、うちが経営していくために必要な300軒ぐらいのお客さんはいつでもつかまえられると思っていました。ところが、「そんなことねえな」と。まず母数が少なくなっている。子どもがそろって家で毎日ご飯を食べる家庭の少なさが顕著に出てきています。

「やりたいことは変質していない」と話す久松達央さん(茨城県土浦市)
「やりたいことは変質していない」と話す久松達央さん(茨城県土浦市)

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