前回から読む

 今回は、茨城県土浦市で野菜を有機栽培している久松達央さんのインタビューの後編。前回触れたように、取材をお願いしたのは、久松さんが20年前に就農して以来、主力にしてきた「おまかせ野菜の宅配セット」が直面している難しさを事前に聞いたことがきっかけだった。

天候にどうあらがうか

 筆者は約10年前、農業取材を始めてすぐに久松さんと知り合った。そのとき、「おまかせ野菜の宅配セット」について学んだことが、農業を理解するための出発点になった。この商品が乗り越えた課題は「天候にどうあらがうか」。今も昔も農業経営の根幹にある問いかけと言っていいだろう。

 急速に存在感を増しつつある植物工場のような施設栽培ではなく、露地で野菜を作る以上、天候の影響は免れない。「おまかせ野菜の宅配セット」が秀逸なのは、宅配でどんな野菜を届けるかを約束しない点にある。

 消費者がその都度、欲しいものを注文するのではなく、畑でできたものを「おまかせ」でまとめて消費者に買ってもらう。「天候にどうあらがうか」という問いかけに対して出した答えは、「天候に寄り添う」だった。

 もちろん、様々な手法を駆使し、天候や病害虫の影響を防ごうと努めてはいる。それでも、影響を完全になくすことはできない。農薬も化学肥料も使わない有機農法で栽培している以上、難しさはさらに大きくなる。そこで、リスクヘッジの役割を果たすのが少量多品目栽培だ。

 品目数は多いが、品目ごとの生産量は多くない。レタスやニンジン、キャベツ、タマネギといった主要な野菜に絞り、大勢の農家で大量に生産する産地の強みの対極にある戦略と言える。久松農園は会社経営で従業員もいるが、「産地」と比肩できる規模ではない。だが特定の野菜とリンクしていない経営だからこそ、天候の影響を多品目で分散できる。

 それを可能にしたのは、多品目という戦略と歯車がかみ合う消費者の「おおらかさ」だ。例えば、「レタスがなければ、キャベツでいい」。それぞれキク科とアブラナ科に属していて、植物学ではまったく別の野菜だが、そのことを意識する消費者はそう多くないだろう。メニューの決まったレストランではなく、消費者は届いた野菜をその都度楽しみながら調理すればいいだけだ。

 この戦略を一言でいえば、「畑をまるごと買ってもらう」となる。だから消費者にとって、「箱を開けたときの驚き」が商品の大きな魅力になる。多品目であるだけでなく、スーパーなどでは売っていない珍しい野菜が入っていると商品力はなお高まる。

 「顔の見えない生産者」が産地というかたまりで生計を立てるのではなく、個で勝負する生産者としては筋の通った戦略だろう。では、その「おまかせ野菜の宅配セット」はどんな困難に直面しているのだろうか。