最初に通った体験農園は、農薬も化学肥料も使わない有機栽培の農園で、「ほとんど虫のために野菜をつくった1年だった」。翌年通った農園は、丁寧に農作業を教えてくれた。そこで作物ができる喜びを知った。「自分たちも野菜をつくることができるんだ」。水野さんはそんな手応えを感じたという。

 そして2015年3月、55歳の年に3人はそろって会社を辞めた。アマチュアが農作業を楽しむ体験農園ではなく、プロの農家のもとで本格的に研修するためだった。2つの農場でそれぞれ週に2日ずつ、さらに自分たちで借りた小さな畑で1日。週に5日、どっぷり農作業につかる日々が始まった。

この出会いがすばらしかった

 ここで3人は幸運な出会いにめぐまれた。正確に言うと、会社を辞めて研修生活に入る前、就農の準備をしていたとき、3日間の短期研修に参加した。その研修先が、八王子の70代のベテラン農家、中西忠一さんだった。会社を辞めたときも、研修先として中西さんのもとで農業を学ぶことを希望した。

 「この出会いがすばらしかった」。3人に共通の感慨だ。中西さんは「ここはこうやるんだ」と言いながら、一緒に作業し、懇切丁寧に栽培の仕方を教えてくれた。先回りすることになるが、3人が法人を立ち上げて独立するとき、地主や売り先を紹介してくれたのも中西さんだった。だが、この取材でしびれたのは、研修中に中西さんが3人に語ったという次の言葉だ。

 「いいものをつくらないと、絶対に長続きしないよ」

 これは、たんに高値で売れる野菜をつくるべきだと強調した言葉ではないだろう。農業をずっと続けるうえで必要な、モチベーションのあり方を伝えるための言葉ではないだろうか。

 ところで、就農にいたるまでのエピソードを取材しながら、気になることがあった。取材場所は、3人が立ち上げたアーバンファーム八王子の作業場だ。打ち合わせ用のテーブルがあり、壁には作業着がかかってあり、隅のほうには野菜の苗を育てるプレートが置いてある。水を噴霧して野菜を洗う機械もある。本棚には雑誌の「現代農業」など、農業関係の本がびっしり並んでいる。

2月にできた作業小屋。くつろぎの空間でもある。(東京都八王子市)