地道に続けてきたビジネスの努力が飛躍に結びつく瞬間がある。都内の不動産会社に勤めていた近正宏光氏が10年前に始めた農業法人、越後ファーム(新潟県阿賀町)のコメが、日本航空の国際線のファーストクラスとビジネスクラスで使われ始めた。これまで使っていたのは、天下のブランド「南魚沼産のコシヒカリ」だ。
越後ファームについては以前にもこの連載で紹介してきた(2014年4月11日「『1キロ5400円』超高級米のつくり方」)(同年12月12日「もう一歩深く、農業の世界へ」)。
高値で完売、日本橋三越本店で唯一の出店

これまでの歩みを簡単にふり返ると、不動産会社の社長の指示で近正氏が越後ファームを立ち上げたのが2006年。条件のいい平地では田んぼを貸してくれる農家が見つからず、ようやくたどり着いたのが山あいにある阿賀町の水田だった。企業の農業参入でふつうイメージするのと違い、規模を拡大して効率化する道がなかった近正氏は、高く売ることに戦略をしぼった。
ターゲットは百貨店で買い物する富裕層だ。そのためには安全・安心をうたうことが前提になると知った近正氏は、農薬や肥料を一切使わず、山の掛水だけでつくる栽培方法に成功し、日本橋三越本店で唯一の米穀店を出店した。日本中のコメ農家が米価の先行きに気をもむなか、越後ファームのコメは毎年、破格の高値で完売。近正氏は2014年に不動産会社をやめ、コメビジネス一本でひとり立ちした。

その歩みにとって新たなステップとなる日航の機内食への採用は、国際線ビジネスクラスの和食の一新にともない実現した。メニューを監修したのは、フジテレビ系列で放映されていた「アイアンシェフ」に出演し、都内の日本料理店のオーナーシェフで知られる黒木純氏だ。「ご飯にこだわりたい」と話す黒木氏と日航がおいしいコメを求めて協議した結果、白羽の矢が立ったのが越後ファームのコシヒカリだった。
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