取材をしていてものごとをどう評価すべきか迷ったり、新しいことを思いついたりしたときに相談する相手が何人かいる。今回はその1人であり、筆者にとって農業取材の「ご意見番」、茨城県土浦市で有機農業を営む久松達央さんのインタビューを取り上げたい。
有名な人なので簡単にプロフィルを紹介すると、久松さんは1970年生まれで、大学を卒業し、帝人で働いたあと、1998年に就農した。SNSで積極的に発信しているほか、著書に『キレイゴトぬきの農業論』『小さくて強い農業をつくる』があり、若い新規就農者などから幅広く支持されている。
今回の取材は、久松さんが主力の商品にしてきた「おまかせ野菜の宅配セット」が直面している問題について、電話で話題になったことがきっかけだった。だが、農園を訪ねてインタビューすると、テーマは有機農業の置かれている状況から新しいテクノロジーの評価など様々な分野に広がっていった。
内容が多岐にわたったため、今回はまず農薬や化学肥料をふつうに使う「慣行農法」と有機農法の関係についてのやり取りなどをお伝えしたい。
本当に上位に行くのか
農薬と化学肥料を使わない有機農法で作っていることを最大の商品価値とすることの危うさを以前から指摘していますね。
久松:食べ物に限らず、日本には「国産だから安心」というメッセージで売られているものがたくさんある。そういう中で、アウトプットの生産物がオーガニックであることに本当の価値があると感じちゃうと、すごく見誤ると思ってます。
この間、九州で開かれた有機農家の集まりに参加して来ました。20年前にタイムスリップしたような光景がありました。みんなが知っている有機農家の息子さんたちが中心にやっていました。
ステキな人たちですよ。すごい強い思いを持ってやっている。「オーガニックじゃないとダメ」ということを、本当に頑固に体現している。それは理屈じゃあないんです。きっと作ってるものもおいしい。
ただし、それは消費者が本当に望んでいるものなのでしょうか。アンケートをとれば、みんな「望みます」と言うに決まってる。でも、利便性との戦いの中で本当に上位に行くかというと、そうはならないと思う。

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