同社は農薬や化学肥料を極力使わないコメを入荷するだけでなく、おむすびをつくる際に保存料や合成着色料を使っていない。そこで味を追求するとともに、輸送に伴う鮮度の低下を防ぐために出した答えがセントラルキッチンを排除した店舗調理だった。サケは大きな切り身で調達し、店舗で焼いて骨や皮をとる。タラコも生のものを仕入れて店で焼いてカットする。

時間がかかっても、質を下げない

サケの切り身を店で焼き、ほぐす
サケの切り身を店で焼き、ほぐす

 もちろん、おむすびのつくり方は習熟が要る。目指すのは日本の食卓の再現であり、「お母さんのつくるおむすび」だ。型にはめてつくったような市販のおにぎりではなく、おむすびの中に空気を残し、食べたときにほぐれて具材と混ざり合うように結ぶには3カ月ほど訓練が必要だという。覆面調査も含め、外部機関や社員による店舗のチェックも実施し、「コメの炊き方」「塩加減」「結び方」などを調べ、問題があればすぐ改善を指導する。

 経費を抑えるには効率的に作業する必要があり、店舗内の仕事は相当に忙しい。そこで避けなければならないのが、作業を素早くさばくことばかりに気をとられ、結び方がおろそかになることだ。スピードと質を両立させるのは口で言うほど簡単ではない。

 生産者の技術から店舗の作業の質まで高い水準を求めるから、急激な事業拡大は難しくなる。ただでさえ飲食業界は人手の確保に困っているが、同社が必要とする人材を見つけ、定着させるのはいっそうハードルが高くなる。

 現在、店舗数は45で、コメの使用量は年に約1000トン。以前つくった経営ビジョンではあと2年で2000トンに達するはずだったが、もう5年ぐらいはかかりそうだという。だが目指すのは、コメの消費の拡大を通した農業への貢献だ。質を落として拡大にブレーキがかかるよりは、ゆっくり成長していったほうがいいのだろう。

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