「高く仕入れて売値は抑える」ことを可能にしている理由のひとつは、農協や卸などを間にはさまず、農家グループと直接取引しているからだが、ではどうやって仕入れ先を決めるのか。生産者を選ぶ尺度にしているのが「理念の共有」だ。まず、農薬や化学肥料を使わない有機栽培を含め、できるだけ環境に負荷をかけずに生産するよう求める。

 もちろん、「安全・安心」は前提にすぎず、商品部の職員を中心にくり返し食べ比べて味をチェックする。品質が要求水準にとどかず、取引が成立しないことも当然ある。すでに取引のある農家で食味が落ちると、「ぱさついていたので水分値を上げてください」「甘みが足りないのでもっと工夫してください」などと伝え、向上を促す。

全従業員で手伝い、他と混ぜない

 だがもっと大切なのは、生産者のモチベーションだ。ここが同社の特徴のひとつなのだが、アルバイトも含めた全従業員が田植えや稲刈りを手伝いに行く。店長などが1泊2日で農家を訪ね、酒を酌み交わし、互いの思いを語り合ったりする。もちろん、同社自ら認めるように「素人なので、あまり手伝いにはならない」(管理本部)のかもしれないが、農家と社員が直接交流し、「評判いいですよ」と消費者の声を伝えれば、それだけで農家のやる気につながる。

 そしてもうひとつポイントになるのが、違うグループのコメを絶対に混ぜないことだ。同社は現在、15の生産者グループと取引があり、店舗に行くとどの産地のどのグループのコメを使っているかが明示してある。つまり、店によって味の傾向や触感に若干の違いが出ることを容認しているのだ。だから、顧客の声が生産者の心に響く。

 もう一度値段の話に戻せば、同社は売値を抑える方法を「薄利多売」(営業本部)と表現する。たくさん買ってもらうには当然、食味がいいことが条件になる。生産者にはおいしいコメをつくってもらうだけでなく、収穫したコメを低温で保存し、注文を受けてから精米するよう求めている。コメの乾燥や酸化を防ぐためだ。ここまでは生産者の努力。あとは店舗での工夫だ。

あっという間におむすびができあがる(東京都品川区のオフィスで)
あっという間におむすびができあがる(東京都品川区のオフィスで)

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