日本人のコメ消費が年々減っていくなか、稲作農家はどうやって未来を展望したらいいのか。その答えのヒントをさぐるには、農家の努力だけでなく、コメを使う川下の業者も注目する必要がある。今回紹介するのは、都内を中心に店舗を増やしている「おむすび権米衛」だ。同社の挑戦から、稲作が活力を取りもどす道筋が浮かびあがる。
「おむすび権米衛」の運営会社のイワイ(東京都品川区)は、大手商社に勤めていた岩井健次氏が1991年に設立した。きっかけは商社時代にサウジアラビアで働いた経験にある。同国の食料自給率が極めて低いことを知ったとき、ふと遠い母国、日本の自給率の低さに思いがおよんだ。
農家の手取りが多く、値ごろ感のあるおむすびを
このとき岩井氏が感じたのは、日本の農業と食料への危機感だったという。「農業を応援しないといけない」。そう決意した岩井氏は、会社を立ち上げたあと、まず外資系の外食チェーンで働いてみた。飲食店経営のノウハウがまったくなかったからだ。
働いた先が扱っていた食材はパンだったが、岩井氏の頭のなかにあったのは日本人の主食、コメのことだった。「コメを売る拠点をつくり、農家にどんどんコメをつくってもらおう」。そこで休みを使って稲作農家を訪ねるなど準備を進め、1999年に創業したのが「おむすび権米衛」だ。
先回りして言えば、同社が農家に払うコメの代金は60キロ当たりで2万4000円。これだけだと水準が分かりにくいかもしれないので農林水産省の統計を挙げると、2015年産米の値段は今年1月の平均で約1万3000円。これは農協と卸との取引価格だから、農家に回る分はもっと少ない。「おむすび権米衛」の契約農家の手取りが一般と比べていかに多いかが分かる。
一方、同社のおむすびの値段は平均で約155円。報道は中立をむねとすべきことをわきまえたうえで、あえて指摘するが、味とボリュームをコンビニのおにぎりと比べ、どちらに値ごろ感があるかと言えば、少なくとも筆者は「おむすび権米衛」に軍配をあげる。業務用のコメは仕入れに際し、ふつうは安さを追求するから、農家にとってどちらが望ましいかは言うまでもない。
Powered by リゾーム?