困難をきわめた事業だったが、さらに2つの問題を指摘する必要がある。1つは、両者のコミュニケーション不足だ。ときにテンアップ側はニチレイのことを、「上場企業さん」と呼んだ。設備の減価償却の仕方ひとつとっても、両者の意見は大きく食い違った。もし意思疎通がうまくいっていれば、立ち上げ当初、仕入れや販売が思い通りにいかなくても、両者のバランスをとる方法があったかもしれない。

 もう1つの問題は、損益分岐点の高さだ。施設への入退館を管理するため、大手セキュリティー会社のICタグのシステムを導入し、食品の安全検査のために高価な機械を購入した。リスク管理の徹底を重視するニチレイにとっては当然の投資だったかもしれないが、生産も販売も思うようにいなかいなかで、フル装備の施設は重荷になった。

意思疎通に課題、撤退後もバックアップ

最後のニンジンの出荷作業

 ニチレイが撤退を迫られるのは時間の問題だった。施設が稼働してから1年後に関係者に「事業をやめたりしないですよね」と聞くと、「不安だ」との答えが返ってきた。そして2013年ごろにニチレイ側はテンアップファームに「不採算事業をいつまでも続けるのは難しい」と伝え、昨年5月には「解散したい」と通告した。

 6次産業化の大型貯蔵施設、ベジポートはメーンの出資者のニチレイが3月いっぱいで抜けたあと、4月からは名前を変えて再稼働する。運営するのは残るテンアップファームと、その親会社で農業資材の販売を手がける森田商店(千葉県富里市)などだ。撤退にあたり、ニチレイは「全面的にバックアップしたい」と約束した。

 具体的には、農水省から受け取った約4億円の補助金のうち、経過年数分を差し引いた残りをニチレイが国に返還する。一部の機械の撤去費用もニチレイが負担する。万が一テンアップファームまで撤退を決めたとき、施設全体を撤去して更地にもどすのに必要な費用もニチレイが拠出する。ニチレイとしては、プロジェクトの幕引きが、テンアップファームの経営の重しになるような事態だけは避けたかったのだろう。