ニチレイ側は、撤退を決めるまでの間に現場に3人の責任者を送り込んだ。そのうちの2人目に2011年に取材したとき、ことの深刻さが浮き彫りになった。「産地の視察を定期的にやらないといけない」。「農家が野菜を横流ししているのか」と聞いたときの答えだ。質問に直接は答えなかったが、「そこはいま、やり始めてます」と言いながら「定期的な視察」のことを話してくれた。

 これは容易な話ではない。農家をたばねるのは、テンアップファームの役割だ。それに加え、ニチレイが関与しているベジポートまで畑を見回りに行けば、それだけでコストアップ要因になる。

 それでも農家の離脱は進み、出荷は細っていった。テンアップファームを通しベジポートに出荷する生産者は、約150軒から20~30軒に減った。ニチレイは当初、テンアップファームを「現場に強い影響力を持ち、かつ先進的な農業生産者」と評価していた。これは必ずしも誇大な表現ではない。テンアップファームは2008年に、セブンイレブンとのホウレンソウの取引で農林水産大臣賞を受賞していた。だが、契約栽培を本格的に実現するのは簡単ではなかった。

 ここまでが、生産面のつまづきだ。一方で、ニチレイが責任を負った販売面も順調なスタートを切れなかった。

「仕入れコストを下回る水準でしか売れない」

 「冷凍食品と生鮮の野菜はぜんぜん商売が違う。しろうとが売ったので、たとえ在庫があっても売り切ることができなかった」。これは撤退にあたってのニチレイ側の反省の弁だ。事業が暗礁に乗り上げた原因を、一方的に農家のせいにしていては教訓は見いだせない。

 約束した量を出荷しない農家も問題だったが、ニチレイ側も「このぐらい売る」と言ったはずの量を、売り切ることができなかった。だから、冷蔵庫がいっぱいになって農家が出荷しようとしても収容できなかったり、倉庫のなかで腐らせたりすることがあった。

 もちろん、ニチレイ側も販路の開拓には取り組んだ。だがせっかく売り先が見つかっても、安値でしか売れない先が少なくなかった。「仕入れコストを下回る水準でしか売れない」。当時、担当者からこんな焦りの声がもれた。あるいは、冷凍食品というつねに値引き競争にさらされる世界で競争してきたために、売価を上げる販売戦略を立てることに不慣れだったのかもしれない。

撤去が決まったジュースの瓶詰め機械