販路の拡大は、和食ブームが追い風になった。売り先のレストランの多くは、中国でも増えつつある日本料理店。だがほとんどの場合、店舗を経営しているのは中国人で、客の多くも中国人。中国人による中国人のための和食店で、日本人が中国で経営する農場の野菜が使われているのだ。

生で食べられるホワイトアスパラ

 農場は上海の最南端の奉賢区にある。我が目を疑う超高層建築が立ち並ぶ市の中心部から車で1時間ほど、別世界の風景が広がる農村だ。運営会社の社名は依思凱農業科技(上海)有限公司で、トップは佐々木祐輔氏。敷地面積は14ヘクタールで、ビニールハウスを中心に170棟近いハウスで野菜を作っている。中国と言うと広大な農地をイメージしそうだが、実態は日本以上の零細経営がほとんどの中、十分に大規模と言える大きさだ。

中国で無農薬栽培に挑む佐々木祐輔氏(上海市奉賢区)
中国で無農薬栽培に挑む佐々木祐輔氏(上海市奉賢区)

 依思凱農業科技は設立が2004年。佐々木氏はもともと日系の貿易会社で働いていたが、2010年に帰国を命じられたことを受け、中国に残るために33歳で退社し、依思凱農業科技に入った。最初は営業マンとして働いていたが、2013年に経営を譲り受け、業績を急拡大させた。2016年の売り上げは佐々木氏が入社したときの2倍強の1億4600万円だ。

 作っている野菜は様々。水菜やルッコラ、レタス、ホウレンソウなどの葉物野菜から、ブロッコリー、トマト、ナス、ニンジンなど多岐にわたる。中国のスーパーのバイヤーから「特色のあるものが欲しい」と言われたため、提供したのが、生で食べられるホワイトアスパラやミズナス、スイートコーン。バイヤーは最初は半信半疑だったが、本当だと知って驚いたという。

 安全性を確保するための工夫もしている。ポイントの1つが水。近くの運河の水を調べると、海が近いために塩分濃度が高く、鉛も多かった。そこで、栽培ハウスの三角屋根に雨水を受けて貯水池にため、さらに浄化装置を使って水質を高めている。土壌や湖沼の汚染が深刻な中国では、衛生面でのこういった努力が商品の競争力を高めることにつながる。

栽培に使う水をためる貯水池(上海市奉賢区)
栽培に使う水をためる貯水池(上海市奉賢区)
水を浄化するための装置(上海市奉賢区)
水を浄化するための装置(上海市奉賢区)

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