こうして全体像をながめてみると、浅井氏の戦略が既存の農業経営とは一線を画していることが浮き彫りになる。海外から直接品種を調達し、研究施設で品質を確かめ、オランダ型の栽培施設で効率的に生産し、需要をさぐりながら直接販売する。川上から川下への一気通貫だ。

幕末や明治維新のような情熱とドラマを

 ちなみに、浅井氏の経営で特筆すべき点はほかにもたくさんある。オランダのコンサルタントの助言をセカンドオピニオンとして取り入れ、農場運営に役立てている場面は前段で紹介した。これとはべつにトヨタ自動車のカイゼンチームにも来てもらい、作業効率を高めるための指導を受けた。

 そこで学んだのが、施設内でできるだけ人が移動しなくてもすむような作業工程をつくりあげることだ。業務プロセスを改善するため、作業をビデオにとって標準化し、マニュアルをつくった。職員ひとりひとりの生産性もICカードで分かるようになっている。

色が鮮やかな房どりミニトマト(松阪市)

 ガラパゴス化した日本の農業界の見えない壁をやぶる浅井氏の挑戦はほかにもあるのだが、今回はこれくらいにしておこう。もって回った意義づけや総括も要らないだろう。視野を世界に広げ、国境を飛び越える力があれば、経営を一段高みに上げることが可能になる。その一点を指摘すれば足りる。もちろん、そのさい一方的に海外をまねるのではなく、日本型にアレンジする工夫が必要だ。

 しめくくりは浅井氏の言葉で。「青くさく聞こえるかも知れませんが」と前置きしたうえで、こう続けた。「幕末や明治維新のころはひとりひとりにドラマがあり、なにかを変えるために情熱を注ぎました。一回きりの人生ですから、そんな生き方をしたいんです」。

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