と書くと順調なスタートにみえるかもしれないが、じつは大きな問題があった。トマトの味がよくて需要はあるのだが、木にストレスをかけて糖度を高める技術を使ったため、収量が増えなかったのだ。味を落とさず、収量を増やすことが課題になった。ここで、浅井氏の目は海外へと向かい始めた。

 はじめに行ったのはカナダだ。そこで最新鋭の栽培施設をみて驚いていると、農場のひとの説明は「これはオランダの技術」。トマトの栽培を初めてから3年目のことだ。では直接見てみようということで、翌年にはオランダを訪ねた。

オランダへ単身「2日間働かせてほしい」

 ここで浅井氏がとった行動がふつうの農家と違うのは、「2日間働かせてほしい」と頼み、栽培の仕組みを自分で確かめたことだ。浅井氏は「バックパッカーと同じ。自分の自由な時間でやりたいことをやるのが一人旅の醍醐味です」と語る。ふつうは大勢で農場を訪ね、相手の説明を聞いて視察は終わる。

 このオランダ訪問はもう1つ、大きな収穫があった。品種メーカーの研究所を2カ所訪ねたのだ。これをきっかけに優れた品種を求め、オランダだけでなく、ベルギー、イスラエル、スペイン、米国など各国を訪ねるようになる。ここで生きてくるのが大学での研究活動だ。先述したように、浅井氏の博士課程での研究テーマはトマトの育種。研究所のスタッフが言うことを、専門知識を背景に理解することができるのだ。

 この戦略にドライブをかけるため、昨年8月には津市に研究棟を立ち上げた。海外の品種が日本でも同じ味を出せるか、病気にならないかどうかなどを確かめるためだ。強みは大学の狭い研究施設とは違い、広さは20アールで天井までの高さが6~7メートルと大きく、実際のハウスと同じ環境で栽培を試験できる点にある。ここで試験を重ね、市場の需要の変化に対応する。

 というわけで、需要動向にはつねに神経をとがらせている。それが可能になるのは、間に農協などをはさまない直接販売を実践してきたからだ。当初は代表電話に連絡してアポを入れるところからスタートした。その結果分かったのが、バイヤーは生産者を求めているということだ。営業の成約率は9割超。農協や卸に販売をまかせている農家ではこれは実現できない。