「自分たちで工夫して、誰もやったことがないことを、わくわくしながらやってみよう」。北海道・十勝の本別町で農業法人を経営する前田茂雄さんは目を輝かせながらそう話す。前回は前田さんが「草創期のドタバタ」のなかで会社という組織をどう育てようしているのかを紹介した(2月10日「『共通1次』で鍛える農業経営」)。

 今回はその続編。テーマはどんな作物をつくるかだ。前田さんが専務を務める前田農産食品が栽培している基幹作物は小麦とトウモロコシ。小麦に関して言えば、「誰でもつくっている作物ではないか」と思われるかもしれない。だが、テキサスA&M州立大学とアイオワ州立大学で米国の大規模農業経営や流通を学び、20代半ばで就農した前田さんは、ある素朴な疑問を持った。

センサーでコントロール

 「自分のつくっている小麦はおいしいんだろうか」

 自分の栽培した作物の味が優れているかどうかを知りたい。当然の問いかけと思われるかもしれないが、じつは小麦農家としては極めて珍しい発想だ。ほとんどの小麦農家は、自分の小麦でつくったパンの味について、それほど関心を持っていないからだ。それを確かめるすべも、ふつうは持っていない。

 コメも小麦も穀物という意味ではどちらもコモディティーだ。だが、コメは全国の産地が特Aを競い合う食味検査があるほか、農家が個人で自分のコメをブランド化することも盛んだ。これに対し、小麦はほとんどの場合、農協などに出荷したら終わり。そのあとは誰かのつくった小麦とブレンドされ、名もない原料としてパンやうどんの原料になる。

 「これでは本当に求められている小麦かどうかわからないではないか」。そう思った前田さんは、間に農協などをはさまず、パン屋とじかに接点を持つようにした。自分の小麦を評価してもらい、どんな品種に需要があるかを知るためだ。稲作ではいまや当たり前の「顔の見えるコメ」の世界を、小麦で実現しようとした。

 その結果わかったのは、パンの味に本当にこだわるベーカリーは、小麦の品質にも細かく気を遣っているということだ。例えば、前田さんは「パンがふくらむから、タンパク質の含有量が多いほうがいいのだろう」と思っていた。ところがパン職人によると、「味が薄くなっておいしくなくなる」。適量にコントロールすることが必要なのだ。

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