もちろん、すべての農協が潤うというわけではない。努力を怠った農協は競争力を今よりもっと失い、生産者の離反が加速するだろう。だが、これまでと違い、売り先の開拓に努め、農家と一緒に生産基盤の底上げに汗を流す農協には大きなチャンスが広がっているように思える。
ステレオタイプを越えて
ここであえて触れておくと、日経ビジネスオンラインというメディアの性格上、今回の内容に違和感を抱く読者もいるだろうと予想している。あるいは、反発する読者さえいるかもしれない。ビジネス界から見れば農業は遅れており、とくに農協がその原因だと感じている人が多いと思うからだ。筆者自身、農業取材を始めたときはそう思っていた。
農協や農政は農業の衰退を食い止めることができなかった張本人であり、兼業農家は農業の停滞を招いた。農協のもとを離れ、家業から企業に脱皮した農業法人が農業再生の救世主であり、企業参入も農業の活性化に役立つ――。農業取材を初めてそろそろ10年になるが、ふり返ってみればそういうステレオタイプな見方から解放されるプロセスだったように思う。
今回のテーマではないので簡単に触れておくと、兼業農家は確かに経営と技術の両面で農業の国際競争力の向上には貢献できなかった。理由はシンプルで、メーンの収入がほかにあるもとで農業をやる以上、生産性の向上よりも「簡便さ」を優先してきたからだ。それを実現することで、高度成長期に都市と農村の格差が広がるのを防ぎ、社会の安定に役立った。
企業の農業参入に関して言えば、この連載でも具体例を紹介してきたように、失敗の連続だ。事前に思っていたほど農業が楽ではないことを知り、多くの企業がひっそりと撤退した。中には「農業には1流の人材が入って来なかった」と豪語した経営者もいたが、強気でいられたのは参入前まで。赤字続きでトップを辞めた後、「自然は思うようにならない」と当たり前のことを述懐した。
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