ここから先は、現在進行形の話だ。昨年4月に施設を買い取った運送会社は、コンサルティング会社とは逆の発想で施設を再稼働させた。「費用対効果です」。センコン物流(名取市)の久保田晴夫社長は取材でなんどもこう強調した。

「費用対効果が大事」と話すセンコン物流の久保田晴夫社長(センコン物流が以前から稼働させていた植物工場で)

露地と人工の「中間」を、慎重に探る

 センコン物流と3人の農家との最大の違いは、同社が事業多角化の一環として2014年秋から植物工場でレタスなどの栽培を始めていた点にある。買収した施設と比べると規模は小さいが、栽培は順調で、スーパーなどへの販売も始めていた。そこで「いける」という手応えを感じていたとき、入ってきたニュースが「復興の象徴」の経営破綻だった。同社は野菜の栽培への本格参入を決断した。

再稼働前の植物工場を点検するセンコン物流の久保田晴夫社長(宮城県名取市)

 施設の買収後、同社が取り組んだのは徹底した経費の削減だ。昨年9月に再稼働する前に、施設に取材に行ったときの久保田社長の言葉がそれを端的に示している。コンサルティング会社に言われるまま、3人の農家が補助金を使って買った過剰な設備を見ながら、部下にくり返しこう問いかけていた。「おい、この機械売却できないか」。

 実際には売却できる設備はなかったようだが、買い取った設備をそのまま使うという過ちはおかさなかった。例えば、電気代がかさむ工場用の変圧器は使わず、家庭用の電気を引いて代用した。水温を一年中一定に保つ機械も使うのをやめた。そうやって経費を抑えてこの冬を越してみて、野菜の生育にどこまで影響するかを確かめようとしているのだ。

経費がかさむ変圧器は使うのをやめた。

 もともと自然のなかでも植物は育つ。ただ露地栽培は天候によって収量が左右されるので、植物工場は人工的に環境を制御して生育を安定させようとする。だがそれを完璧にやろうとすれば今度は経費が青天井でふくらむ。そこで、同社は2つの「中間」をさぐろうとする。それが、久保田社長が言う「費用対効果」の意味だ。

 こういう発想だからもちろん、施設をいきなりフル稼働させたりはしない。3棟ある施設のうち、動かしているのは1棟だけ。経費とのバランスでどれだけ収量を安定させられるかを確かめている最中という点もあるが、もうひとつ大きいのは販路だ。売り先を確保しながら、生産量を増やすというビジネスとしては当然のことを実践しているのだ。

 こうして、被災地に誕生した植物工場は再生への歩みを始めた。それがうまくいくかどうかは、久保田社長のつぎの言葉にかかっているだろう。

 「慎重にやる。そして絶対に成功させる」

再稼働した植物工場。まず1棟で生産を始めた。
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