
どう評価すべきなのか、迷うデータが発表された。一見すると、農業の先行きに光が差したように見える。農業所得が2年続けて増えたのだ。だが、要因を考えると、楽観すべきなのかどうか、にわかには判断がつかない。もしかしたら、農業危機が本当に現実になったことを映しているかもしれないからだ。今回は、最近公表された数値をもとに農業の実情を考えてみたい。
「いつか、思い知らせてやりたい」
データの紹介に入る前に、10年近く前にある農家に言われた言葉に触れておこう。面積が100ヘクタールに達する大規模農家の一言だ。
「おれたちには食べるものがある。でも、それを売るのをやめたら、どうなるか。そのことを、いつか、思い知らせてやりたい」
売るのをやめたら、自分の首を絞めるだけではないか。国内で不足すれば、輸入すればいい。そういった反論は百も承知の言葉だろう。彼が言いたかったのは、必ずしも楽ではない農作業を必死にこなしても、農産物価格は低迷し、しかも「農業は保護されている」と批判されることのやり切れなさだ。この言葉は消費者には暴論と響くかもしれない。だが、ここまで極端でなくても、似たような思いを抱いている生産者は少なくないと思う。
もちろん、一般のサラリーマンを軽く超える収入を得ている農家も多い。彼らは農家と言うより起業家であり、彼らの才覚と努力には特筆すべきものがある。一方で、農業は長年、「息子には継がせたくない」と言われてきた産業であり、就業者数は歯止めの効かない減少のプロセスにある。
まず、取り上げるべきデータは2つある。農林水産省の昨年末の発表によると、2016年の農業総産出額は9兆2025億円と、2年続けて前年を上回った。農業総産出額は農水省が統計で使う専門用語で、ざっくり言うと、農産物の生産額を指す。この数字は2014年まで長期にわたって減り続けており、2年連続の増加は潮目の変化を予想させる。
同じ発表資料によると、生産農業所得も2015年、2016年と2年連続で改善した。これもテクニカルタームで、農業総産出額から農薬や肥料代などの経費を引いて、補助金を足した額を指す。農業で、生産者がどれだけ所得を得たかを示すデータだ。これも、長期的に低迷していた。
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