農業が再生するために、企業的な経営センスが必要になるという点で、多くの人に異論はないだろう。では家族で農作業をしていた農家は、どうやって企業的な経営へと脱皮するのか。

 これまでこの連載で、家業から企業へと成長した農家をいくつも紹介してきた。そうした法人のなかには、地域経済をリードしつつあるような経営がたくさんある。一方で、あえて企業化への道を選ばず、家族で営む農業に徹する人も少なからずいる。それもまた、農業本来の魅力的な生き方だ。

 2つの道は対照的にみえるかもしれないが、実際はおかれた状況が針路を左右することが多い。例えば、地域を守ろうとするがゆえに、必然的に企業的な経営に進むことがある。今回取り上げるのは、そんな例のひとつと言える。

なぜ、レンコンなのか

収穫したばかりのレンコン(金沢市才田町)
収穫したばかりのレンコン(金沢市才田町)

 紹介するのは、石川県金沢市の農事組合法人、Oneだ。この連載では初めてだが、メーンの作物はレンコン。栽培面積が約45ヘクタールあり、そのうち40ヘクタールでコメをつくり、4.2ヘクタールでレンコン、残りの面積でニンニクなどを栽培している。

 コメでなく、レンコンにスポットをあてる理由は、両者の収益性の違いにある。コメの売り上げは40ヘクタールで4000万円。これに対し、面積が約10分の1のレンコンは、コメを上回る4500万円。手元に残る利益でみれば、効率の違いはさらに大きくなる。

 そんなに収益性が高いなら、なぜほかの農家もレンコンをつくらないのかという疑問も浮かぶだろう。だが頭角を現すには、危機感をバネにした、昼夜を問わない努力が必要だった。そして、そのプロセスの先に、トヨタ自動車の指導が大きな役割を担うことになる。

 Oneの代表は宮野一さんで、面積の大半を占める稲作を担っている。レンコンを担当しているのは、副代表で弟の宮野義隆さんだ。16歳からやっていた大工の仕事を22歳でやめ、実家で就農した。はじめのうちは父親や兄を手伝う形で稲作をしていたが、約9年前に本格的にレンコンの栽培を始めた。

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