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「こと」を提供する観光農園

 販路に関しては、農協が頼りになった。市場で売ろうと思えば、大きさや形のそろった作物をたくさん出荷する必要がある。その点、近くの農協が直売所を開放しているので、作物の大きさや出来具合に応じて自分で値段をつけて売ることができた。初心者にとってハードルの低い販路だった。

 就農からすでに15年。当初、掲げた目標の一部は実現することができた。その1つが観光農園だ。伊藤さんはたんに作物を作って売るのではなく、収穫という体験も含めた「こと」を提供することを目指してきた。その結果、ブルーベリー園には毎年1000人を超す消費者が訪れ、トマトやナス、キュウリなど野菜の収穫体験にも700~800人が参加するようになった。

 この際、伊藤さんが心がけたのが、「整然としてきれいなプロの農家の畑」を見せることだった。雑草をきちんと管理し、清潔にし、野菜を商品として扱う。サービス色を前面に出した、消費者主導の体験農園ではない。実際、伊藤さんは農協の直売所やスーパーへの出荷を今も続けている。

 「元気な野菜はどんな環境で育てられ、届けられているのか。それがいかに大変か。本来、1個100~200円で買えるような手軽なものではないことを、理解してほしい」という。前段で触れたように、これは伊藤さんが就農前、飛び込みで畑を手伝っていたときに得た思いそのものだ。

作業場の壁には「モデル農園を目指す」の文字(神奈川県秦野市)

 では伊藤さんの畑は、「プロの畑」としてどのレベルまで到達できたのだろう。「これはかなわない、まだ追いつけないと思う農家が周りにたくさんいます。段取りが良く、ある作物が終わったら、すばやく次の作物を植え、畑が空くことがない」。これは技術の未熟さの告白ではなく、農業技術の充実を追求し続ける姿勢から得た洞察とみるべきだろう。