今回の取材は、コシヒカリを継ぐブランド米として新潟県が推す新品種「新之助」を、越後ファームが作り始めたことがきっかけだ。

 まずインタビューの前に商品を確認しようと思い、12月初めに日本橋三越本店の越後ファームの売り場を訪ねた。ところが、目指す新之助は見当たらない。正確に言うと、赤い袋が印象的な一般の新之助はあるのだが、越後ファームが栽培した新之助はなかった。店員に聞くと、「もう売り切れました」。2017年産のシャッターチャンスを逃してしまったわけだ。

一般の新之助はあったが、越後ファームの新之助は売り切れていた。2017年12月6日撮影(東京都中央区の日本橋三越本店)

 越後ファームの売り場での値段は一般の新之助が5キロで3500円。ふつうのコメと比べると十分に高値だが、越後ファームは5000円とさらなる高額だ。事前に近正氏から「うちの新之助のほうが売れてます」とは聞いていたが、10月半ばに売り出して、1カ月半で売り切れるとは思わなかった。その判断ミスが、シャッターチャンスを逃すことにつながった。

 店頭に出した越後ファームの新之助は合計で約1600キロ。5キロと1キロ、2合の3種類のパックで売り出した。その個数の内訳はわからないが、1カ月半で数百人の顧客がこの高値のコメを買った計算になる。

「高くてもいい」

 高い方から先に売り切れる――。ブランド戦略の真骨頂と言うべき結果だろう。その理由を近正氏に聞くと、こう答えた。

 「あの店は新規でふらっと来て買う人はほとんどいません。『おいしければ、高くてもいい』と考える人がリピーターです」

売り場でシャッターチャンスを逃した越後ファームの新之助のパッケージ

 ふつうの新之助はスーパーでも買うことができる。だが、越後ファームの新之助は、「あの店でしか買うことができない」。安いコメを探すのが目的ではなく、おいしいコメを買うために三越を訪れる人たちを常連客としてつかんだことが、高値の新之助が売れたことの背景にある。

 質の違いはパッケージでも演出した。ふつうの新之助はビニール袋だが、越後ファームの袋は高級な民芸品をイメージさせる特注の紙製。栽培にも気を配り、農薬と化学肥料は地域の平均の半分以下に減らして育てた。

 ここで1つ疑問がわく。いくら越後ファームがまじめにコメを作っているとは言え、新品種の新之助をいきなり作ってうまくいくものなのか。答えは否。2016年にも試験的に作ってみたが、「できは悪かった」。

 「雑味が多く、甘みも少なかった。収量が多すぎたんです」

 一概には言えないが、コメは肥料をやり過ぎて収量が増えると、味が落ちる傾向にある。越後ファームの田んぼは山あいにあり、大規模に効率的に作るのには適さないが、土壌は肥沃だ。その結果、指導通りに作ったら、収量が過剰になった可能性がある。そう考え、2年目の2017年は肥料を入れるのを抑えたところ、期待した通りの食味に仕上がった。