H&Mよりも先にエチオピアからの大量出荷を実現

 物流も課題のひとつだった。内陸にあり国営のロジスティク会社を使わなければならないエチオピアからの輸出のオペレーションは不明瞭で、日本への到着日時が読めない。アパレルには致命的だ。フォワーダー会社は事前に何度もエチオピアに入り、船が出ることになる隣国のジブチ港からアディスアベバまでの道のりを、実際に車で走行して状況を確かめた。

最後にタグをつけて完成したTシャツ(エチオピアの工場にて筆者撮影)
最後にタグをつけて完成したTシャツ(エチオピアの工場にて筆者撮影)

 一足先にエチオピアでの生産開始を発表したH&Mも苦労している。アパレルの場合、生産性と品質に関するマネジメントと、納期を確かにするサプライチェーンの構築が事業の肝で、これらは経験によって培われるため、時間が必要なのだ。H&Mはまだ安定的な生産を行うには至っておらず、委託先の現地工場を変えながら、現在もトライ&エラーの道中にある。

 出荷が終わり、日本に無事到着したという連絡を受けたときに感じたのは、「なんとかなった」というほっとした気持ちだった。2年半前の総スカンを食らった会議から、それでも賛同し、やると手を上げてくれる人が現れ、予期せぬことの連続を経て、やっと日本までTシャツが届いた。今回の生産に関わった日本のチームは、筆者を除き全員がエチオピアに来たのも初めてであったが、いずれもアパレル生産のプロ。日本企業が積み重ねてきたこまやかな途上国での生産での経験が、アフリカでも十分に活きた。

 今回の生産がうまくいかなければ、日本では「やっぱりエチオピアはだめだ」という評価になってしまったことだろう。H&Mより先に大量生産を実現したことも大きい。今年のエチオピアからの衣料品輸出量では、ストライプインターナショナルがH&Mよりも多くなる見込みだ。現在日本では、同社に続けとばかり、複数のアパレル企業がエチオピアでの生産を検討している。

 縫製業は輸出志向型の製造業である。一方で、その国で消費するためにその国で作る消費地立地型の製造業でも、アフリカの旺盛な内需を反映して、外資が事業を拡大している。次週は(5月27日公開予定)は、後者における企業の事例をお伝えする。

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