椅子取りゲームは始まっている

 背景にはアメリカやEUによるアフリカに対する特恵関税があるとはいえ、エチオピアだけでなく、レソト、ケニア、モーリシャスといった国が、欧米市場に衣料を輸出している。欧米への販売が弱い日本のアパレルにとっては、市場に入り込むためのひとつの機会だ。そして、現地の限られたよい工場を早く押さえた企業だけが、このサプライチェーンに乗ることができる。

 生産性や事業環境が整うよりもずっと前のタイミングから、椅子取りゲームは始まっている。アパレルを始めとした日本の製造業は、アジアや他の途上国で、生産面での競争を経験してきたはずだ。中国でもバングラデシュでも繰り返されてきた競争が、アフリカでも起ころうとしている。

 生産をやり切るには困難がいくつもあった。現地のパートナー工場は、これまでヨーロッパの顧客を中心としていた。ヨーロッパ市場と日本市場では、品質管理の方法や要求水準が違う。金属混入の有無を検査するために、大人向け衣料であっても全量を検針器にかけるのは日本のアパレルくらいだ。

 新しく検針器を購入し直し、プロセスを変更してもらいたい日本チームと、これまでも検査をしっかり行ってきて製品に問題など起こしたことがないという誇りを持つ工場側とで、機械を挟んでにらみ合いにもなった。理解の乖離具合に未熟な筆者はフラストレーションが溜まったが、ここで言葉を尽くし理解を深めたことが、その後の品質を向上させた。

縫いあがったTシャツのポケットのサイズを確認する現地ワーカー(エチオピアの工場にて筆者撮影)

 バングラデシュや中国では縫製工場における労働環境の悪さや過重労働が問題になったが、エチオピアの場合、人々は仕事にかまけることや残業を嫌い、金銭をインセンティブにして働かせることが難しい。よく見ると、仕事中もぼんやりしている人がいる。独自の暦を持つため、思わぬ日に祝日があり、みんな休暇をとって故郷に帰ってしまう。エチオピアの人たちの価値観にあわせながら進めていくしかない。