米大統領の職はカネで買える―

 米政界で昔から語られているフレーズである。もちろん数百億円を出せば大統領の職を手に入れられるほど簡単なわけではない。ただ、多額の選挙資金なくして大統領選を戦い抜くことはできないことも確かである。

 筆者は米大統領選を「ライフワーク」と位置づけ、長年取材を続けている。最初に大統領選に接したのはロナルド・レーガン大統領が再選された1984年だ。まだ読売新聞ワシントン支局のインターンだった。実際にジャーナリストとして取材を始めたのは92年で、今回で7回目となる。

 これまで大統領選をさまざまな視点から取材してきた。候補の人物像、政策、選挙対策本部、スタッフ、有権者、選挙戦略、選挙の仕組みや歴史、さらに選挙資金などだ。特に最後の選挙資金は、集めた額によって候補の命運が決まると言えるほど重要である。

 実は戦後71年間、集金力に乏しい候補が大統領に当選したことはない。少なくも筆者が取材をしている過去25年間は、より多くの選挙資金を集めた候補が勝ってきた。正比例ではないが、当選と集金力には強い相関関係がある。

集金額トップはヒラリー氏

 連邦選挙管理員会が2月20日に発表した報告書によると、今年の大統領選の主要候補で最も集金額が多いのは民主党ヒラリー・クリントン氏だ。選挙対策本部に献金された金額と外部の政治団体(スーパーPAC)に献金された総額は1億8800万ドル(約215億円)。2位に約100億円の差をつけている。

 2位は共和党テッド・クルーズ氏(テキサス州選出の上院議員)の1億400万ドル(約118億円)。3位が民主党バーニー・サンダース氏(バーモント州選出の上院議員)で9600万ドル(約110億円)。4位が共和党マルコ・ルビオ氏(フロリダ州選出の上院議員)の8400万ドル(約96億円)である。この額は現在の数字で、11月まで勝ち残る候補は1000億円超のカネを集めることになる。

 上記の候補はいずれも選挙戦で上位に残っている人たちだ。ちなみに、報告書には20人以上の候補がリストされている。すでに選挙戦から退いた人もいるが、上位4人よりも多額の選挙資金を集めたまま撤退した候補はいない。つまり、選挙を戦い抜くためには資金が必要であり、資金があるからこそまた上位に残れると言える。

トランプ氏は自己資金で賄う

 例外は不動産王ドナルド・トランプ氏である。利益団体やロビイストなどから多額の献金を受け取っていない。それにもかかわらず、共和党では昨夏から支持率でトップを維持する。スーパーチューズデーでも圧勝する見込みだ。トランプ氏の強さの要因は1月の当欄に記したのでお読み頂ければ幸いである(関連記事:「民主党支持者の票をも奪い始めたトランプ候補」)。

 トランプ氏は選挙を「自己資金でまかなう」と宣言しているが、実は一般有権者からの資金も受け取っている。利益団体やロビイストからの「ひも付き」のカネを受け取らないだけだ。この点はサンダース氏も同じである。

 トランプ氏の選挙対策本部には一般有権者からの献金(2月20日発表)が、2730万ドル(約31億円)集まっている。自己資金をどれほど使っているかは報告義務がないため闇に包まれたままだ。本人は「たぶん3000万から4000万ドル」と述べており、献金額と合わせると少ない額ではない。

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