国内のLCC(格安航空会社)が参入し、早くも5年が過ぎた。当初は人件費や空港の着陸料など運航コストが高く、高いサービスレベルを求める日本には根付かないという意見も多く聞かれたが、これまで空の旅を積極的に選択しなかった人たちや、深夜の高速バスを使っていた若者、帰省や介護による利用など、新しい需要を掘り起こしている。

 2012年3月1日、当時は閑古鳥が鳴いていた関西国際空港を本拠地として、国内初のLCCとして運航を始めたのが、ANAホールディングス(ANAHD)傘下のピーチ・アビエーションだ。

<span class="fontBold">井上慎一(いのうえ・しんいち)氏</span>1958年生まれ。82年に早稲田大学法学部を卒業後、同年4月に三菱重工業に入社。90年、全日本空輸に転じ、営業本部や販売本部などを経て、2008年、アジア戦略室室長に就任。2010年からはLCC共同事業準備室室長を務め、2011年2月にA&F アビエーション(同年5月からピーチ・アビエーションに社名変更)の代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任した。(写真:吉川 忠行、以下同様)
井上慎一(いのうえ・しんいち)氏1958年生まれ。82年に早稲田大学法学部を卒業後、同年4月に三菱重工業に入社。90年、全日本空輸に転じ、営業本部や販売本部などを経て、2008年、アジア戦略室室長に就任。2010年からはLCC共同事業準備室室長を務め、2011年2月にA&F アビエーション(同年5月からピーチ・アビエーションに社名変更)の代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任した。(写真:吉川 忠行、以下同様)

 深い赤とピンクの中間色「フーシア」をブランドカラーとし、24時間空港とは言いながらも夜になれば人気(ひとけ)もまばらな関空を拠点としたピーチの成功を、懐疑的に見る目が多かった。

 しかし、就航3年で黒字化し、2017年3月期で4期連続黒字を達成。繰延税金資産の計上可能額が大幅に増え、純利益は2016年3月期比80.1%増の49億4400万円と、大きく押し上げた。

 サービス面でも、機内で自動車を販売したり、ピーチの利用者に女性が多いことから、インスタグラマーを活用したセールを打つなど、ほかのLCCとは違ったアプローチで市場開拓を進める。拠点も関空と那覇空港に加え、今年9月には仙台空港を第3拠点化。2018年度には、訪日客にも人気の高い北海道の新千歳空港の第4拠点化を目指す。

 一方で、地方空港に目を向けると、旅行客が空港に着いてから目的地へ向かう移動手段が限られているなど、課題も多い。空港からのバスや鉄道といった二次交通の充実が、LCCがこの先成長していく上での課題とも言える。ピーチの井上慎一CEO(最高経営責任者)に、今後の経営戦略を聞いた。

4期連続黒字の意義を改めて聞きたい。創業間もない企業にとって、3期連続での黒字達成が一つのマイルストーンだと思うが、4期の次は何が見えてくるか。

井上CEO:執念で狙っていた。例えば、2020年の東京オリンピックだ。オリンピックまでは良かったが、終わった後にダメになってしまう、というようなものにしたくなかった。それではこれまでの努力が無駄になってしまうので、4期目は増収増益を達成したかった。

 コストが高い日本でも、やりようによってはLCCビジネスが成立することを証明した。つまり、やり方がいっぱいあるということだ。これは航空ビジネスだけではなく、旅行もそうだ。旅行のパラダイムが変わってきているが、誰が変えたかといえば、インスタグラマーの女性のように若い人たちだ。

 彼女たちがピーチに乗り、女性の利用者が4000円で関空から仙台に行けることを知ると、ほかの都市へも出掛けようと、リピーターになってくれる。「今度あそこ行かない?」となる。彼女たちが飛べば飛ぶほど、新しい旅が生まれている、と言える。

 人はそれぞれに、土地の魅力を感じられる。画一的な旅の概念が崩れつつある。これまで飛行機に乗る機会が少なかった彼女たちは、それ故に、新しい旅を発見できる喜びを強く感じているのではないか。

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