国内線初の電動シートを導入したANA
エアバスA321は、世界的な大ヒット機A320の兄弟機で、胴体がA320より約20%長い44.5m。ANAがA321を運航するのは、今回で2回目。以前は1998年4月から2008年2月まで、最多で7機のA321を国内線で運航しており、8年ぶりの就航となる。
今回導入するA321ceoは、新型エンジンを採用して燃費を改善したA321neo(ニュー・エンジン・オプションの略)の開発に伴い、エアバスが従来型を名称変更したもの。座席数は、以前は191席(スーパーシート8席、普通席183席)だったが、今回は194席(プレミアムクラス8席、普通席186席)となる。ANAが運航するA320と比べると、28席多い。
シートはレカロ製で、プレミアムクラスは国内線機材では初の電動シートを採用。普通席を含む全席に充電用USB端子を設け、プレミアムクラスには電源コンセントも設置した。また、機内インターネット接続サービスにも対応しており、新造当初から屋根にアンテナを設けてある。
このプレミアムクラスで、従来と最も異なるのは電動シートを導入したことだ。冒頭で述べたように、国内線は長くても3時間程度と飛行時間が短く、ベッドが必要なわけでもないので、これまでリクライニングは手動だった。だが今回の電動シートでは、ボタン一つでリラックスポジションにしたり、もとの状態に戻せたりする。


ワンタッチで背もたれやフットレストが動き、ヘッドレストと足置きを自分で動かせば、リラックスポジションは完成する。私が見た限り、少し前のビジネスクラスと比べても遜色のないものだった。
2012年から使用している現行機が本革であるのに対し、新シートは布地に戻った。本革は高級感や手入れのしやすさなどのメリットはあるが、シートの形状によっては滑りやすくなるのが難点だ。確かに私も、かつて「ジャンボ」の愛称で親しまれたボーイング747などで採用されていた布地の方が、座りやすかった記憶がある。
新シートに座ってみたところ、座り心地は素晴らしく良かった。しっかりと身体をサポートし、滑りにくく、いつまでも座っていたいと思えるほどだった。しかし飛行機の場合、実際に飛んでいる状態でなければ、本当の意味での評価は難しい。そこを差し引いても、座り心地はジャンボ時代のシートを彷彿させるものだった。
また、ノートパソコンをつなぐ電源コンセントや、スマートフォンを充電するUSB端子もある。従来のシートは搭載する機材により、電源の有無があったが、A321ceoは全機が装備する。そして充電用USB端子はプレミアムクラスだけではなく、普通席も全席に備えた。
近年のノートパソコンはバッテリーの大型化と省電力機能の進歩で、稼働時間は長くなってきている。しかし地方では、電源コンセントのあるカフェがなかなか見つからなかったり、空港でラウンジに立ち寄る時間がなかったりした場合などは、機内でも充電できればと感じる機会はある。スマートフォンも、バッテリーが弱ってくると急激に使える時間が短くなってしまう状態は、誰しも経験しているのではないだろうか。
A321ceoのプレミアムクラスは、2席-2席の1列4席で2列ある。2列目であれば、座席前にカバンを置けるようになった。現行シートには、なぜか前席下に手荷物を置くスペースがない。例えば、カバンを手元に置いておきたいため、あえて自席前にカバンを置けない1列目を避けて2列目以降に座っても、まったく意味がない。これなら、足もとが広い1列目を選んだ方がいいだろう。
実際に座ってみると良いことだらけに感じた新シート。しかし、フライトが短い国内線で、本当に電動シートは必要なのか。というのも、バネの力を使った手動式のほうが、背もたれなどの位置を動かすのは圧倒的に早いからだ。個人的には、同じシートの手動式があれば、というのが正直な感想だ。

ANAはこのA321ceoをわずか4機しか発注していないため、なかなかこのシートを体験するのは難しそうだ。200席未満とやや小ぶりな機体であるため、投入路線も地方路線が中心になるだろう。
ではなぜ、4機の導入にとどまったのか。ANAはこの機材について、長期保有を前提としていない。この機材は、新エンジンを搭載したA321neoが揃うまでの「つなぎ」だからだ。
ANAはA321neoを26機、シリーズの標準型であるA320neoを7機発注している。A320neoは2016年度から2018年度に、A321neoは2017年度から2023年度に受領する。このため、航空会社がリース導入する際の目安となる、最長7-8年程度がA321ceoの運航期間になりそうだ。
いずれにせよ、これから受領するエアバス機は、国内線はA321ceoと基本的には同一仕様になるとみて良いだろう。
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