関空の業績開示拒否は「ちょっとおかしい」

 ヴァンシはこれまで、空港運営のコストは落とし、浮いた費用をサービス改善に反映してきたことを、売り文句のひとつとしてきた。しかし、こうしたヴァンシの手法に対し、国内の空港会社役員からは、疑問を指摘する声も聞かれる。

 「関西エアポートになり、トイレの清掃回数が減った。日本人客だけであれば、さほど影響はないだろう。しかし、われわれの空港でも、外国人客が増えた今は習慣の違いもあり、汚れやすくなっているのが実情。本当に減らすことが良いのだろうか」と、長期的に見るとサービス低下につながるのでは、との見方だ。

 サービスの見直しだけではない。情報開示も一変した。

 5月31日、関西エアポートは2016年10月1日から2017年3月31日までの第2期決算を発表した。関西エアポートでは対象外となった鉄道事業の売上を除外したり、資金調達構造が異なることなどを考慮し、旧運営会社である新関空会社の2016年3月期通期決算と比べると、売上高は実質3.2%、経常利益は同3.6%それぞれ増加したという。

 旺盛なインバウンド取り込みや、着陸料値下げなど外部の目に触れやすい施策も奏功し、関西エアポートの業績は好調だ。しかし、2018年3月期通期の業績見通しは、非公表とした。

17年3月期決算を発表する関西エアポートの山谷社長(左)とムノント副社長
17年3月期決算を発表する関西エアポートの山谷社長(左)とムノント副社長

 オリックス出身の山谷佳之社長は、「空港を1年間やった経験として、国際紛争や疫病、災害など、私たちがコントロールできない要素があり、経営陣としてなかなか見通せない」と、公表しない理由を説明する。

 しかし、新関空会社の時代は、原則として業績予想を開示していた。羽田の国内線ターミナルなどを運営する日本空港ビルデングや、成田を運営する成田国際空港会社(NAA)、セントレアを運営する中部国際空港会社なども、業績見通しは上場・非上場を問わず開示が原則となっている。

 国内の空港会社首脳は、山谷社長の開示方針に「ちょっとおかしいのでは」と疑問を呈す。

 これに対し、山谷社長は「関西エアポートは40%をオリックス、40%をヴァンシ、20%を関西企業が出資しており、情報の透明性に誤りがあってはならない。必要なものはディスクローズしており、国と民間企業の考え方が違う。透明度を持って重要なものから開示している。国が(出資比率)100%の会社とは違う」と、新関空会社との違いを力説する。今期の業績見通しは、ディスクローズの対象外ということのようだ。

 しかし、業績予想を開示しているのは、ほかの空港会社だけではない。航空会社も、国の内外を問わず開示している。見通しを誤れば経営責任を問われ、海外であればすぐにクビが飛びかねない。

 別の空港会社首脳は、「山谷さんは、英語でヴァンシと毎日やり合わないといけない。私なら務まらない」と、山谷社長の立場をおもんぱかる。

 関空の関係者は、「出資比率について、オリックス社内では1%でもヴァンシを上回るべき、との声があったが、山谷さんは対等にこだわった」と明かす。もし、オリックスが41%出資していたならば、開示姿勢は変わっていたのかもしれない。

空港は誰のものか

 関西エアポートは運営を開始して以来、新関空会社が発表してきた夏休みなど長期休暇期間中の利用予測で、方面別の予測値の開示を拒否し続けている。つまり、どの国や地域とどのくらいの人が行き来しているのかが、外部にはわからなくなっている。

 また、2016年8月に関空で「はしか」の集団感染が発生した際も、大阪府などが公表する内容と比べて、当事者である関西エアポートの発表は、情報量が限られていた。

 特に利用予測については、空港周辺自治体からも、関西エアポートから情報開示が十分になされていないとの不満が聞かれる。

 山谷社長は、新関空会社時代に公表してきた数字は、航空会社などから集めた数字だと説明した上で、「関西エアポートとして、責任の持てない数字は出せない」という。しかし、公表する数字すべてに同社が責任を負う必要はなく、参考資料として示す方法もあるはずだ。

 LCC(格安航空会社)をはじめ、航空政策研究を手掛ける東京工業大学大学院の花岡伸也准教授は、「港湾の民営化と同じことが起きようとしている。港湾も民営化と同時に、運営会社が情報を出し渋るようになった」と指摘する。

 関西エアポートが、新関空会社と比べて情報開示が消極的になった点について、就航する航空会社や、国などのコンセッション関係者らは異口同音に、ヴァンシの開示姿勢が影響しているのではと指摘する。

 ヴァンシ出身のエマヌエル・ムノント副社長は、筆者の問いに対し、「ヴァンシが情報開示を止めているという指摘は事実と違う。関西エアポートとして必要な情報は開示している」と、語気を強めて反論した。しかし、ムノント副社長の回答を関係者に伝えたところ、納得した人は誰一人としていなかった。

関西国際空港の新ターミナルへ向かう到着初便となったピーチ・アビエーションの香港発関空行きMM68便の乗客
関西国際空港の新ターミナルへ向かう到着初便となったピーチ・アビエーションの香港発関空行きMM68便の乗客

 こうした関西エアポートの経営状態に対し、国交省からは「空港は公共財だ」という、もっともな声が聞かれる。同省幹部は、「役人の発想には限界があるので、民間の力で空港を発展させようというのが、民営化の趣旨」と説明する。関西エアポートの現状を見る限り、国が運営していた方がよかった、となりかねないと感じるのは、筆者だけではないだろう。権力を持った民間企業ほど、タチの悪いものはない。

 関空の地元からはこんな声も聞かれた。「山谷社長はビジネスマンとしては優秀だが、空港を商売としてしか考えていないのではないか」

 前出の空港会社役員は、「日本の空港会社も、運営について批判を受けることがある。しかし、利用者の利便性を向上させたいという思いは常にある」。筆者が全国の空港を取材する中で、こうした志の高い役員に出会う一方、ことなかれ主義の人が目に付くのも事実だ。

 しかし、空港は単なるカネ儲けの手段ではないという気持ちは、長く航空業界に身を置く人ほど、所属する組織を問わずに強く持っているように感じる。

 2016年の暮れ、日本航空(JAL)の植木義晴社長が筆者にふともらしたひと言が、印象に残っている。

 「売上や利益のことをよく聞かれるけど、僕らは公共交通機関なんだ。それを忘れちゃいけない」

 空港は誰のものなのか。民営化を進めていく上で、改めて目を向けるべきテーマではないだろうか。